第27話 中二房
全ての兵器が残骸となった関東部北端の基地に、小さな影が降り立つ。
その子供、拓馬はゴーグルを外して息をついた。
「あの兄ちゃん。ここなら弱い奴らしか来ないから練習には丁度いいって言ってたけどよぉ。これじゃ弱すぎてつまんねぇよ」
救急車くらい呼んでやるかな、と拓馬は顎についているインカムのスイッチを切り替える。
これは通信の為のものではなく、拓馬の声を増幅して発する為の物だ。もちろん通信も可能だ。
声を風に負けずに、より遠くへと伝える事が出来る。
拓馬は悦に入りながら、この装備をくれた小さな男との会話を思い出していた。
◇
「手荒な事をして悪かったな。オレも部下には恵まれなくてな」
黒いスーツを着た童顔の男、神無月リオンは豪華な椅子に座るなりそう言った。
拓馬は対面に、同じような豪華な椅子に座らされている。
遊園地で意識を失って、目が覚めた時はここにいた。
だが監禁されているにしては豪華な造りの部屋だったので、しばらく戸惑っていたのだ。
するとすぐにこの男がやってきた。
「お前。もっと強くなりたくはないか?」
いきなりなリオンの問いに拓馬はたじろぐ。
「お前を捕えた四人組はオレの部下ではなくてな。金で雇っている他国のエージェントだ。いつか敵に回るかもしれん。その時は、お前にやってもらいたい」
「あいつらに、勝てるのか?」
もちろんだ、とリオンは当然の事のように言う。
「お前は誰よりも強くなれる。誰よりも強い。だが金と経験が無い。それをオレが与えてやろう」
拓馬は唾を飲み込む。
「な、なんで、オイラにそんな事を? アンタが?」
「お前に才能があるからだ。オレは才能のある者を集めたい。集めて組織を強くしたい」
「アンタんとこで働けって?」
「そうだ。もちろんこれは貸しだから返してもらう。それまではオレに従ってもらう。オレにも手に入れたい物があるからな。それを手に入れたら……、オレとお前は対等だ。ちゃんと給料を出してやろう」
拓馬は豪華な部屋の装飾品を見回す。
「手に入れたい物って?」
この男が手に入れたい物というのが想像できないようだ。
「まあつまらんものだ。それは要求を果たしたら話そう」
「で、でも。強くするって……、どうやって?」
露骨にあまり訓練とか修行ってのは……、という心配を顔に出す拓馬に、リオンはハンカチに包んだ物を出し、広げて見せる。
そこには一錠のカプセル。
要するに薬だ。
「これを飲むだけでいい。それで、お前は強くなれる」
薬を凝視した拓馬は心配そうにリオンの顔を見る。
「興奮幻惑剤だ。病院でも処方されている成分で危険はない。オレもお前の体は大事だからな。超常的な力と言うのは本人の心の力が大きく作用するのがほとんどだ。要は思い込みと自信だ。強い想いが力を強くする。これは自信をつけさせる薬だ」
慣れれば必要なくなる、と椅子にふんぞり返る。
「さあ、どうする。決めるのはお前だ」
◇
そして拓馬はその薬を飲んだ。
ぐっと両手を握り締める。気分が高揚する。
今の自分になら何でも出来る気がする。どんな現象だって現実にできる自信がある。
拓馬はインカムのスイッチを入れ、「ヒュゴッ!」と音を発した。
ジェット噴射のような音は、実際に噴射と言う現象があったように拓馬の体を上空高くへと押し上げた。
水無月が全基地に総攻撃をかける事は神無月にも伝わっている。水無月にも、神無月に通じている者はいるのだ。
上空で体を翻し、更なる推進音と共に夜の闇へと吸い込まれていった。
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