第26話 小さな影
夜の帳が降りる時刻。
柳田率いる水無月施設軍の分隊は、関東部北端の基地を襲撃していた。
神無月も水無月も国内にいくつかの基地を所有しているが、どれも人里離れている。
それは自衛隊基地でない事を知られると面倒な事と、兵器の出入りをあまり人に見られたくない為だ。
もちろん弾薬を持ち込む事は許されないが、海外の武器を積んだ輸送機が給油目的で一時駐屯するのが黙認される事は珍しくない。
普通は国内でミサイルを撃つ事が無い為、持ち込む必要はないのだが、水無月、神無月共にいつでも「偶然立ち寄った輸送機にたまたま弾薬が積んであった」事実を作るのに抜かりはない。
そして基地から基地へ、兵器が移動するのにも航空管制上不自然な事もない。
ただいつもと違ったのは、水無月基地から神無月基地へと兵器が輸送されたという事だ。
そして基地に到着と同時に不運な暴発事故が起きた。
柳田分隊の班長は、急揃えの攻撃ヘリ、アパッチのミサイルを掃射しながら思う。
楽な仕事だ。自分はラッキーだと。
こんな辺境の地では先の部隊を全滅させた秘密兵器はいないだろう。
ここには大した兵器もない。反撃される可能性も低い。兵器の補充を断ち、中継地点として用をなさないようにすればそれでいい。
最新鋭の兵器は前に全て壊されてしまったから、こちらの戦力も旧型のヘリが三機のみ。
それでも十分に任務を終えられる。ただ一方的に破壊して帰るだけだ。
だがそれが彼らの不運でもあった。
ほぼ任務を完了し、満足げに戦果を確認していると管制塔に続く建物の上に人影が見えた。
「逃げ遅れか? 建物は最後に攻撃した。まぬけでもなければ死ぬ事はないはずだがな」
彼らも虐殺に来たのではない。
わざわざ人を撃つ必要はないのだが、その人影に違和感を覚える。
「なんか小さくないか? 子供か?」
そんなバカな。と思いつつもサイズよりも等身が子供のものだ。それが屋上にポツンと立っている。
実際子供なら気の毒だが、助けに降りて危険を冒すほどでもない。
班長は「まあ放っとけ」と撤退を指示しようとした時に人影が飛んだ。
その小さな影が編隊の間を通り抜けると、ヘリの一機が爆発。回転しながら破壊した発着場に落ちていった。
「なんだ!?」
と飛んで行った影を確認するも、もうどこへ行ったのか分からない。
そうこうしている内にもう一機も爆発して落ちた。
「レーダーを確認しろ」
「何も映ってません」
とにかく動け、と指示してヘリを旋回させる。
地上からの攻撃か? ミサイルの接近警報もなかった、とパイロットもパニックを起こす。
ひゅっ、と目の前を黒い影が横切る。
影の飛んで行った先を目で追うが追いつかない。
ヘリを回転させながら周囲を確認したが、目視する事はできなかった。
「とにかく逃げろ」
とヘリの体勢を整えさせた所で、目の前に影が飛来する。
影はふっと速度を落とし、ホバリングするヘリの前にその姿をさらした。
それはどう見ても子供のシルエット。
子供は両手を前に突出し、何かを握り潰すように手を握り込む。
その瞬間「ぐしゃっ」と機体が潰れた。
もぎ取られたエンジンが爆発し、機内を炎が駆け巡って墜落する。
だが地面に激突する瞬間、まるでクッションでも挟まっているような柔らかい衝撃に見舞われた。
だが潰れた金属の中にいる状態での衝撃。爆発の炎もあって乗員は辛うじて生きているような状態だ。
柳田分隊の班長は、息も絶え絶えに残骸から這い出し、そこで意識を失った。
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