急章

第24話 音信

 教壇に立つ教師の言う事も上の空という感じで、躍斗は授業を受けていた。

 あれから一週間。

 クイン・カルテットという四人組にやられてからどうなったのかは分からない。

 気が付いたら家で寝ていた。

 キュオも同じだ。

 疲れて眠ってしまって連れ帰られたと思ったようだ。

 美空にもそれとなく聞いてみたが、お茶を濁された。あまり深く聞く事もできない。

 拓馬がどうなったのかが気になった。

 うまく逃げ切れたのか。それとも捕まってしまったのか。

 メールしても返事がないのでより心配は高まる。

 しかしどうする事もできない。

 捕まったとして何が出来るのか。

 クイン・カルテットは世界の理を壊す事無く超常的な力を使う。

 いつぞやの百目鬼にもやられ、真遊海にだって腹に一発撃ち込まれたのだ。

 魔王だ世界の観測者だと言って何でも出来ると思い上がって、結局は何も出来ない無力な奴だった。

 そんな思いに駆られながらただぼんやりと黒板を眺めていた。

「どうしたの? ボンヤリして」

 声をかけられて我に返る。

 いつの間にか学校が終わってたのか、とのろのろと机を片付ける。

 教室にはほとんど生徒もいない。

「ここんとこ元気ないよね」

 そう? と曖昧に返事をして帰り支度をする。

「もしかして、わたしが前に着いて行ったから、彼女とマズくなった?」

 美空が声を落とす。

 いやそういうわけじゃ……、それに彼女じゃないし、とどこから否定したものかと逡巡していると、

「メールしてみたら?」

 とポケットの携帯を指す。

 確かにそうかもしれない。真遊海なら、拓馬がどうなったのか知っているかもしれない。

 携帯を取り出すが、自分から真遊海に連絡した事のない躍斗はまた躊躇する。

「もう」

 美空が業を煮やしたように携帯を取り上げる。

「やっぱり、彼女としか連絡とってないじゃない」

 美空は何やら携帯を操作して躍斗に返す。

 画面を見ると真遊海に発信している。

 お、おい……、と文句を言う間もなくコール音が途切れる。

 すぐ切るのもマズい。

 観念して受話部を耳に当てる。

「何か用?」

 予想に反して素っ気ない対応に更に焦りが募る。

「あ、あの……」

 相手に聞こえるのではないかというくらいの音で唾を飲み込む。

「た、拓馬がどうなったか、知らないか?」

「は? 何言ってんの? 先に勝手に帰っておいていきなり言う事がそれ?」

 そういう事になっていたのか、と躍斗の頭の中は一週間前に遡る。

 躍斗は覚えていないので世界が何かしらの帳尻を合わせたのかと思っていたが、そういうわけではなかったようだ。

 躍斗達は家で気が付いたが、真遊海は遊園地に置き去りになったようだ。

 そっと美空の方を見ると口をパクパクさせている。

 何かと思って見ていると口の動きは言葉を噤んでいるようだった。その形から発音を読み取る。

 あ……や……ま……つ……て……。ああ、「謝って」か、と理解し、慌てて、

「ごめん」

 と言ったが「もう電話してこないで!」という言葉に遮られて切られた。

 ツー・ツー、という虚しい音を聞きながら呆然と美空を見ると、あちゃ~という顔をしている。

 躍斗はそのまま立ちつくした。

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