第25話 白銀の御子の神隠し(4)


―リュウトの領主様は白銀の御子さまだ・・・!


―白銀さまは、領主様の身体を借りて、陸軍の奴らを懲らしめている・・・!



あの事件以降、様々なうわさが町中を飛び交った。


うわさは憶測を呼び、複雑に絡み合い、結果的にタムラのへの疑いを強めるものとなった。


白銀さま―――“白銀の御子”は、アマテリアの建国神話に登場する最も重要な登場人物の一人である。書物によって多少の差異はあるものの、“いたずら好きで人々を懲らしめるのが好きな、邪悪な神”という点において、ほぼ共通している。


産業革命以降、人々の生活や価値観が大きく変わり、古臭い習慣や迷信が廃れ始めようとしている現代においても、”白銀さま”の存在は絶大であった。

とくに、小さな子供がいる家庭では、“悪い子にしていると、白銀さまに食べられちゃうよ!”なんて決まり文句も健在だ。


また、地方によっては皇祖神の“黒鋼さま”ではなく、邪神である“白銀さま”を敢えて祀ることにより、その御霊を鎮め、人々の平安を祈る風習もある。


――それゆえ、タムラを“白銀さま”の化身と畏れる人々の心理は、想像に難くなかった。


“あの日”以降、タムラは屋敷に籠るようになった。


領主としての仕事はすべて自室で完結させ、来客があった場合はオゼに応対させ、自身は極力姿を現さないよう努めた。


他方、ルイスと一緒にいる時間は大幅に増えた。朝から晩まで、何をするにしても二人はくっつきあっていた。


だが、ルイスとじゃれ合いながら、笑い合いながら屋敷で日々を過ごすタムラの背中は、どこか寂しそうだった。

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