第24話 白銀の御子の神隠し(3)
「その女の子は銀髪・・・とても長い銀髪だったそうです。そう、タムラ様のこれと同じ。」
「お、オゼ・・・?」
タムラの髪を掴むオゼ。
指先をこすると、銀色の毛先がくるくると回転した。
「ちょっと、手悪戯はやめてよ、オゼ。なんか恥ずかしいじゃないか・・・っていうか、君はもしかして、僕が犯人だと疑ってるの?」
「滅相もない。私はタムラ様のことを信頼申し上げております。・・・第一、ラグナリア様が居なくなったのは、タムラ様がリュウトに来られる2か月も前の出来事です。タムラ様が犯人なわけありません。それに、わがアマテリア皇国は欧州人との混血が進んだおかげで、髪の色も多種多様です。タムラ様以外にも銀髪の方は大勢いらっしゃいます。ただ・・・。」
オゼは髪をつまんでいた指を離す。サラサラの銀髪ははらはらとほどけ、再びタムラの耳を覆い隠した。
「リュウトの街では、犯人とタムラ様と結びつけようとする者がいるようです。もちろん、陸軍の連中にも・・・。」
「・・・っ!」
「もっとも、今回の事件は、住民にとって目の敵である陸軍に一矢報いたような格好ですから、どちらかというと好意的に受け止められているようです。ただ、陸軍の方は・・・。」
タムラは息を飲んだ。
「そっか。ラグナリア伯の件はともかく、今回は陸軍の士官が行方不明になったから、彼らと敵対している僕を無理やり犯人とこじつけて、捕まえようとするかもしれないね・・・。ちょっとまずいな。」
タムラは残っていたコーヒーを飲み干し、オゼにカップを返す。
「銀髪か・・・。」
ふと、リビングの方を見ると、床に1冊の絵本が出しっぱなしになっていた。
「あれは、“しろがねさま”の絵本・・・。」
先日、タムラがルイスに読み聞かせた、“白銀の御子”と“黒鋼の御子”の伝承にまつわる絵本。
あれ以降、ルイスはたびたびこの本を図書室から引っ張り出し、何度も読み返している。
「あの、タムラ様。大変申し上げにくいことなんですが・・・。」
タムラのカップを片づけたオゼが、ダイニングに戻ってきた。
「街の住民の中には、その不思議な女の子を、“しろがねさま”・・・白銀の御子の仕業では?という者もいるようです。」
オゼは、絵本を拾い上げると、“しろがねさま”が大きく描かれているページを開いた。
「長い銀髪で、赤い瞳の女の子。クスクスと笑いながら悪戯を仕掛けてくる。どれをとっても、しろがねさまの特徴そっくりじゃありませんか?」
「た、確かに・・・。」
タムラは、先日ルイスに指摘されたことを思い出した。
―――ねえタムラ。タムラって、もしかして・・・“しろがねさま”なの?
「確かに、似ているかもしれない。銀髪で、体つきも男らしくないし。」
リュウトに赴いたころはセミロングだったタムラの銀髪。
あれから4か月が経ち、今では肩甲骨が隠れるほどまで伸びた。
体つきも、限りなく成人の女性に近い。なで肩で、肩幅は狭く、くびれもある。
「でも、僕は女の子じゃない!瞳の色も・・・赤くない。・・・赤いのは、僕じゃなくて・・・!」
頭をかきむしる。両目の青色が、ゆらゆらと揺れている。
「タムラ様?」
オゼは驚いた。自分のご主人様がここまで感情を・・・辛そうな顔をするのは、とても珍しいことだった。
「あの、タムラ様。申し訳ありません。私過ぎたことを・・・。」
「ごめん、オゼ。僕疲れちゃったから、今日はもう寝るよ。」
作り笑顔。オゼの目には、なぜかそれが痛々しく見えた。
「じゃ、おやすみ。・・・ああ、ついでにルイスの様子も見ておくよ。また寝小便垂れてるかもしれないから。・・・じゃあね。」
そそくさと自室に戻って行くタムラに、オゼは何も言葉を掛けられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます