第22話 白銀の御子の神隠し(1)


玲和4年1月15日午後11時。

リュウト市街にて。


「ひっく・・・、うへええ、飲み過ぎたぜ。」


夜の街を、一人の男がゆらゆら揺れながら、自宅に向かって歩いていた。


地面には5センチほどの雪が積もっていて、男は時々足を滑らせ、転びそうになりながら、しかし器用に踏ん張りつつ、ざっくざっくと音を鳴らしながら進んでいく。


開国直後の整備事業によって建設された無数のガス灯は、しんと静まり返った雪の街をぼんやりと照らしていた。


「おや・・・?」


大通りを渡り、路地に入ったところで、男は異変に気付いた。


「これは、軍のヤツらの制服か・・・?」


踏み固められた雪道の上に、肩に階級章の入ったベージュ色の制服が2、3着あちらこちらに散らばっている。


「・・・けっ!忌々しい陸軍のヤツラめ!こうしてやるわっ!」


日頃、街中で傍若無人にふるまう兵士たちへの恨みを口にしながら、男は制服を踏みつけ、そして夜の暗闇に向かって蹴り上げた。


すると、ふわりと浮き上がった制服の向こう側に、何やら白い影が。


「ん?あれはなんだ・・・?」


男は冷え切った両手の甲で目をごしごしと擦ると、街頭の薄明かりを受けながらふわりふわりと浮かぶ“それ”を、じいっと見つめた。


―――クスクスクス・・・。


人を小ばかにするような、かすれた笑い声。


「ひ、人・・?」


いや、人でない。


しかし、人の形をした・・・正確には、人間の子どもの形をした、“何か”。


―――ふふ、クスクスクス・・・。


「お、女の、ガキ・・・!?」


華奢な肩。

枝のように細い首と、腕、脚。

背丈からして、8~9歳くらいに見える。


狭い路地の真ん中。

男のいる場所から斜め上方向に5、6メートル。

両脇の木造2階建ての建物からせり出した屋根と屋根の間。


普通の人間であれば、ありえない場所で。


「ひ・・・あ・・・、飛んでる!?」


―――クスクスクス・・・。


長い長い銀髪と、ギラギラと真っ赤に光る二つの目玉。


「ば、化け物・・・!」


男は腰を抜かし、雪の上にどさっと座り込んでしまった。


「に、逃げ・・・。」


立ち上がろうにも両足に力が入らない。


―――クスクスクス・・・。あら、あなたも“こっち”に来たいの?


「え?こっち・・・え?」


唐突に質問されるも、その意味が理解できない。

訊き返そうにも、恐怖で声が出ず、口をパクパクさせるばかりで、何も話せない。


―――クスクスクス。せっかくだから、ご招待しちゃおうかしら、ね?


「しょ、しょうた、い・・・いい?」


いうや否や、そいつの銀髪が触手のように何束にも枝分かれして、男の方目掛けて飛んできた!


「うっ、うわああああああああああああああああああああああああっ!!」




男の悲鳴が、夜の街に響き渡った。

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