第16話 聖なる夜に(2)


「「「ハッピー・セイント・クリスマース!!」」」


聖夜を祝う決まり文句と共に、クラッカーを鳴らす面々。

テーブルの上は、オゼが今しがた拵えた七面鳥の丸焼きとショートケーキを中心に据え、周りにはローストビーフやサラダ、レーズン入りブレッド、かぼちゃのポタージュなどといった、ルイスが喜びそうなごちそうが所狭しに並べられていた。


「んー!!おいひー♪」


先ほどの仏頂面はどこへやら、満面の笑みでケーキを頬張るルイスを見て、タムラは、

「あはは! ルイス、ケーキの前にゴハン先に食べようよ。ほら、七面鳥もおいしいよ!」

と言いつつ、

(・・・いいか、オゼ。たらふく食べさせて、眠くさせる作戦だ!)

(御意!)


オゼと視線で会話しながら、二人で協力して、ルイスの口にごちそうを次々と突っ込んでいく。




そして、2時間後。


「うーーーーーん・・・。」


ルイスよりも先に、なぜがタムラがノックダウンしていた。


「タムラ様、しっかりしてくださいよ・・・。」


テーブルに突っ伏し、動けなくなっているタムラ。右手には空のワインボトル。


「ご、ごめんよ、オゼ・・・。ルイスのゴハンにずっと付き合っていたら、僕のお酒も進んでしまって・・・。はは、こんなに呑んだのは久しぶりだぁ・・・。」


空になった食器を脇に除け、すらっとした細い腕を枕にし、サラサラの銀髪をテーブルに振り乱しながらぐったりとしているタムラ。

そんな彼の姿に、オゼは少しドキッとしつつも、わざとらしく大きなため息を漏らしてみせた。


「仕方ありませんねぇ・・・。寝かしつける役は私が引き受けますから、タムラ様はプレゼントの方を。・・・滞りなく、お願いしますねっ!」


だらしないご主人様を叱咤しつつ、オゼは、ちょうどデザートのフルーツゼリーを食べ終えたルイスを抱きかかえた。


「ほら、ルイス。寝自宅してベッドに入りましょう。」

「えーーーー!? ルイス、まだねむくないもん!」

「ねむくなくても、ベッドに入りましょう!・・・ほら、もう9時過ぎっ!子供は寝る時間!!」

「いーーーーやああ!せんとくりすさま、まってるのーー!」


じたばたと暴れるルイスを適当になだめながら、オゼはルイスを着替えさせ、ベッドの中に押し込む。




「ねむくないもんっ!!」


毛布をかぶり、目をギンギンに見開くルイス。


「そりゃそうでしょう。昼寝したんだから・・・。」


オゼは、ベッドの端に腰を下ろし、ルイスの両眼を右手でそっと塞ぐ。


「オゼ、なにしてるの?せんとくりすさま、みえなくなっちゃう・・・。」


ルイスはオゼの手を払いのけた。

すると、オゼは懐から5銭硬貨を取り出し、


「ほーら、ねむくなーるねむくなーる・・・」


硬貨の穴に紐を通し、ルイスの目の前で振って見せた。


「むうーーーーっ!オゼのいじわるっ!!」

「はあ、仕方ありませんねぇ。・・・それじゃあ、私がひとつ、昔ばなしでも聞かせてあげましょうか?」

「むかしばなし?・・・オゼ、えほん よんでくれるの?」

「いいえ。」

「えほんがないと、おはなし できないよ?」

「本がなくとも、お話は出来ます。」


ルイスの頭の上に疑問符が付いた。


「ふっ・・・、人生というのは、絵本のページをひたすら捲り続けるようなものです。たとえ次のページで、どんな喜劇が・・・、いや、あるいはどんな悲劇が起こりようとも。」

「ルイス、むずかしいはなし、わからないよ・・・。」


オゼはルイスの胸の上に、そっと手を載せた。


「難しくなんかないわ、ルイス。これは、あなたと同じ名前の・・・“ルイス”ちゃんという女の子のお話よ。」


オゼは眼鏡をはずし、懐に仕舞うと、ゆっくりと物語を紡ぎ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る