第14話 秘密の遊び場(3)(H scene)

「「ごちそうさまでしたー!」」


オゼが用意してくれた弁当を食べ終えた頃には、既に日が傾き始めていた。


タムラは山の中腹にある露天風呂にルイスを連れてきた。


「たむら、すっごいね!ここのいけ、すごくあったかい!」

「これは池じゃなくて、温泉って言うんだよ。お外にあるお風呂のことさ。」

「おんせん!おふろ!」


山肌を削って作られた、30平米ほどの露天風呂。

皇海に沈みゆく夕日を独り占めできる、絶好のロケーションだ。


「いっぱい汗かいたから、此処で休んで行こうか・・・って、ルイス早いよ、もうっ」


ルイスはあっという間に服を脱ぎ棄てて、勢いよく湯の中に飛び込んだ。


「ふああ・・・、たむら。すごくあったかいね。」


ルイスは、四肢を投げ出して、気持ちよさそうにぷかぷかと浮いてみせた。


「すごい体勢だなあ。・・・っていうか、ルイス。髪の毛、束ねなくていいの?」


タムラは、服を脱ぐと、銀髪を手ぬぐいで上手にまとめ、ゆっくりと湯の中に入った。


「・・・かみのけ?」

「うん。お湯の上に広がっちゃってるよ。」


ルイスの瞳の色と同じエメラルドグリーンの髪は、屋敷に来てから一度も切っておらず、今やルイスの背丈ほどにまで伸びた。それが湯の上で放射状に広がり、さながら海苔の養殖のようである。


「浸かりっぱなしだと、髪傷んじゃうよ。ほら、こっちにおいで。まとめてあげるから・・・。」


タムラは風呂の脇に置いてあった籠から手ぬぐいを取り出し、手招きした。


しかし、ルイスは、

「いや!このままがいい!」

と言って立ち上がり、10メートルほどある風呂の対岸まで、ばしゃばしゃと波しぶきを上げながら逃げていった。


「ああ、こら、ルイス!走ると危ないよ!」


タムラは手ぬぐいを掴んだまま、同じようにしぶきを上げながら、ルイスを追いかける。


「いやあん!」

「ほーら、捕まえたっ!」


後ろからルイスの身体を持ち上げ、羽交い絞めにするタムラ。


いたいけな全裸の幼女を襲う全裸の青年・・・と聞けば、ただの変態以外の何者でもないが、彼の美しすぎる容姿が、その不潔な要素をことごとく中和してくれるおかげで、傍からすれば、風呂で仲良く戯れる姉妹にしか見えない。


「こら、ルイス!そんなに暴れるとあぶな・・・きゃっ!」


ルイスの動きを封じようとして、勢い余って足を滑らせてしまったタムラは、女の子のような悲鳴をあげ、後ろから倒れてしまった。


「ひゃあ!!たむら、だいじょうぶ?」


湯がある程度クッションになったとはいえ、後頭部を底の岩に勢いよく打ち付けてしまった。


「がほっ!いててて・・・」


タムラの後頭部には、大きなタンコブが。


「まったくもう、ルイスったら。」


けがをしたのに怒るでもなく、タムラは体を起こし、盛り上がった患部を擦った。


「やれやれ、わかったよ、僕の負けだ。僕は大人しく、ここで座って・・・ん?ルイス、どうしたの?湯あたり?」


なんだか様子がおかしい。

翡翠色の両眼を見開き、瞬きもせず、立ち尽くしたまま、じっとタムラの方を見つめている。ずぶずぶに濡れた長い髪の毛は、心なしか、全体的に淡い緑色の光を発しているふうに見える。


「あっ、ルイス・・・お腹の石が・・・!」


下腹部に埋め込まれた石が、強い緑色の光を放っている。

その中心に、黄色い線で描かれた円形状の模様がうっすらと浮かび上がった。


ルイスはにっこりとほほ笑み、ゆっくりとタムラの方へ近づいてきた。


「ルイス?ちょっと、何を・・・ひゃうっ!」


タムラの上にまたがり、ゆっくりと腰を下ろした。

タムラの性器は、ルイスの柔らかい肉の割れ目に挟まれ、押しつぶされてしまった。


――タムラ・・・。


タムラの脳内に、ルイスの甘ったるい声が響いた。


「ルイス、恥ずかしいよ・・・んんっ!!? ちゅっ・・・」


ルイスはタムラの顔をぐいっと引き寄せて、マシュマロのように柔らかい舌を、タムラの口の中にねじこんだ。


「はむっ・・・ちゅうう・・・、ちょっと、や・・・ちゅる・・・むぅ・・・。」


タムラがどんなに抵抗しても、その小さい身体からは想像も出来ないほどの怪力で頭を押さえつけられ、ルイスを押し剥がすことができない。

ルイスの成すがまま、タムラは唇を甘噛みされ、舌を舐められ、唾液を吸われる。


「ちゅうう・・・、ぷはあ、ルイス!・・・ちゅっ・・・。」


股間の肉をこすり付けられ、口の中を舌でかき回されている。


なのに、それなのに。

タムラの頭には、邪な感情が一切も湧いてこない。


(オゼが知ったら、思いっきり軽蔑されそうだけど。でも、なぜだろう、物凄く落ち着く。それに、なんだか懐かしいような・・・。)


そうして、いったい何分間、2人は体を絡めていただろうか。


「くぷぅ・・・ちゅぱっ・・・はぁ。ルイス・・・?」


まるで、操り人形の糸がプツリと切れるかのように、ルイスの腕の力が一気に抜け、ルイスの頭が、がくんと前に倒れた。


「おっとと、ルイス大丈夫かい。」


タムラはルイスの両肩をゆっくりと押し戻した。

タムラの唇とルイスの唇の間には、いつの間にか細い唾液の糸が繋がれており、夕日に照らされ、キラキラと光っていた。


「・・・んん?タムラ?どうしたの?」


不思議そうな顔で、目をぱちぱちとさせながら、タムラの顔を見つめるルイス。

いつの間にか、ルイスの身体とお腹の石から放たれていた光と、石に描かれていた模様は消え、普段通りの無垢なルイスに戻っていた。


(あ、あれ!?そういえば、いつのまに・・・!)


後頭部をさすると、先ほどまであったはずのコブが消え、痛みも全くなくなっていた。そればかりか、全身がふわふわと、羽のように軽くなったような感覚。


「ルイス、大丈夫?具合、悪かったりしない?」


ルイスは首を大きく左右に振った。


「ううん、何ともないよ!ルイス、元気だもん・・・・くしゅん!」


ルイスは口もとに両手を当て、小さなくしゃみをした。


「あ・・・、はは。風邪をひくと良くないから、もうしばらく、肩まで浸かっていようか。」

「?うん、わかった・・・。あ、タムラ、あれみて!」


ルイスの指さす方には、皇海に沈みゆく夕日。


「たむら、すごくきれいだね・・・。」

「うん、そうだね。」

「・・・ねえ、タムラ。きょうはたのしかったよ!ルイスのために、いっぱいおそとであそんでくれて!・・・ルイス、すっごく、うれしかったの!」

「僕も嬉しかったよ、ルイス。喜んでもらえて、本当に良かった。」

「えへへ。タムラ、ありがとう・・・。ルイス、タムラのこと、だいすきっ!!・・・んーーーっ!」


そう言って、ルイスはタムラの頬に唇を押し当てた。


「ちょっと、ルイス。そんな力いっぱいちゅーしなくても・・・。」


オレンジ色の光を体に浴びながら、タムラとルイスは日が暮れるまでじゃれあっていた。





「カンバラ様。今日はお世話になりました。・・・それから、村の皆さんも。今日はありがとうございました。」


再び、ふもとの小屋の前にて。

夜も更け、遊び疲れて熟睡しているルイスを背負いながら、タムラは今朝の老人に頭を下げた。


「うむうむ。どうやら楽しんでもらえたようじゃな。今日1日、村と山全体を封鎖して、不届き者が入りこまぬよう家臣たちを警備に当たらせたが・・・まあ、何事もなく済んでよかったわい。」


老人はあごひげをしゃくりながら、かっかっか、と笑った。


「ええ。そ、そうですね・・・。」

「・・・ん?どうかしたかね、タムラ殿?」

「あ、いえ。別に大したことではないのですが・・・。」

「ふうむ・・・。」


老人はしわだらけの右手をルイスの頭の上にそっと載せ、やさしく撫でた。


「まあ、また近いうちに、いろいろと話し合った方が良さそうじゃの。今日はもう遅い。おぬしもゆっくりと休みなされ。」


「はい、ありがとうございました。」


その後、タムラは老人の手配した車に乗って、ルイスと共に屋敷へ帰っていった。

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