第12話 秘密の遊び場(1)

「たむらの、ばかあああああ!うわあああぁん!」


ある日の昼下がり。

屋敷中に、ガラガラに枯れたルイスの泣き声が響きわたった。

20帖ほどある板張りのリビングの床には、積み木、ぬいぐるみ、ガリア人形、絵本・・・等々。子供の玩具があちらこちらに散らばっていた。

「ルイス、わがまま言わないで!・・・ほら、また新しいおもちゃ、買ってきてあげるからさ!」

リビングの隅の方で、カーテンに包まって丸くなっているルイスのご機嫌を取ろうと、タムラは足元に転がっていたウサギのぬいぐるみを拾い上げた。

「ほーら、ルイス、ウサギさんだぞ~。“ルイスちゃん、コンニチワ!”」

ぬいぐるみを膝に乗せて両足を掴んで操り、裏声でルイスにしゃべりかけてみた。

ルイスは一瞬だけカーテンから顔を出すと、懐に仕舞っていた三角の積み木を取り出し、タムラに向って投げつけた。

「あぶなっ!・・・もう、こらっ、ルイス!」

ルイスは、再びカーテンに包まり、「たむらのばかっ!」と、捨て台詞。

「まいったなあ・・・。」

タムラが散らかった積み木を拾って集めていると、オゼがリビングに入ってきた。

「あら、やっぱり門の外で遊びたいのかしら・・・?」

オゼは頬に手を当ててつぶやいた。

「うん・・・、ルイスの気持ちはわかるんだよ。さすがに1か月以上も家の中だと、息が詰まるもの。」

ルイスが屋敷の外で遊びたいと訴えたのは、これが初めてではない。

そんなルイスのご機嫌を取ろうと、タムラは屋敷にあったおもちゃを片っ端から引っ張り出し、ルイスに与えた。ラグナリア伯爵が残した道楽の品々がここまで役に立つとは、タムラもオゼも思ってもみないことだった。

・・・が、それでも足りないと思い、二人で協力して、リュウトの街中の店から古今東西の珍しい品々を取り寄せた。玩具に限らず、絵本、服、等々。

しかし、最初は興味を示してくれるものの、何日もしないうちに興味を失い、再び外に出たいと訴えてくる。

「タムラ様、差し出がましいようですが・・・、ちょっとくらい」

「だめだ。」

オゼが言い終わるよりも前に、タムラは真顔で答えた。

「オゼの言いたいことは、本当によくわかるよ。でも、状況が状況なんだ。」

そういうと、タムラは懐から1枚の手紙を取り出した。

「それは?」

「どうやら陸海両軍の諜報員・・・つまりスパイだね。そういった連中がこのリュウトにも何人か潜んでいるらしいんだ。これは、そういう軍事情報に詳しい方から頂いた手紙なんだよ。」

「スパイ・・・!?じゃあ、やっぱりルイスの命を?」

オゼは息を飲んだ。

「いや、さすがに殺しはしないだろうけど。でも、ルイスを誘拐して、僕や僕と関係の深い人たちをゆするくらいのことはするかもしれないね。」

タムラは手紙を懐に仕舞った。

「・・・まあ、とはいえ。このままではルイスがかわいそうすぎる。何とか手を打たないとなあ・・・。」

タムラはしばし考え込み、

「しょうがない。あの方のお力を借りてみるかぁ・・・。」

そうつぶやき、自室に戻ると、ペンをとって手紙を書き始めた。

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