第3話 嫌われ大作戦発動
「柳沢敬一、19才。
T大法学部に在籍。
政治家の名門、柳沢家の長男。
しかし、愛人の子で正式に跡取りになったのはここ一年の話。
学業で優秀だったので正妻である美樹子夫人が反対できなくなったため一族満場一致で決定した。
うわっ!女遍歴まで調べてる!えーと…今まで付き合った人数は8人でこんな感じ。」
紗也が書類を机の上に広げた。ご丁寧に歴代彼女の写真つき。
昨日涼子は家に帰ってから母に
「結婚するお相手のこと知りたいの。」
などと言って柳沢敬一の資料をまんまと引き出した。それを放課後アニメ同好会に持ち込み紗也と満里に見せたのだ。
涼子はゾッとし呆れた。調べてるとは思っていたがまさかそんな私生活に及ぶことまで調べていようとは…―。もはやストー○ー。
涼子の目は死んでいた。自分の母の所業が怖すぎる。それを見ていた満里と紗也は涼子の肩に手を置いた。
「心中お察ししますよ。」
と満里が
「フツーに引くよねぇ…。」
と紗也が。
涼子は声もなかった。
「でもまぁ助かりましたよ。あの胡散臭そうなイケメンから探りいれなくてすみます。」
と満里は言った。
「朝礼で見たけど、ちょーイケメンだったね!リョコママがラブになっちゃうわけだわぁ。付き合うだけならいいかも(ハート)。」
紗也はうっとりして言った。すると涼子はキッと睨んだ。
しかし、確かにイケメンであった。今朝の朝礼台に上がった彼は涼子の母が今熱をあげている韓流スターに似て、少し垂れ目の色の白い好青年だった。これが三次元ではなく二次元のキャラクターだったら涼子ですらグッツを買い漁っていたところである。涼子にとってちょっとでもグラッとくるイケメンであることが何よりも憎たらしく、また自身が″顔が良いと言うだけで!″と情けなく感じるのだった。
「ゴメンって。付き合うだけならって話!とりまイケメンの女の好み判ったからさー嫌われ対策はできんじゃん?」
紗也は両手を顔の前で合わせた。
「そうですよ!しかしどの彼女も美人ですね。イケメンは面食いなのでしょうねぇ。」
満里は歴代彼女達の写真一覧を取り上げ言った。
確かに美人揃い。
スラッとしているが出るところは出ているメリハリボディーで派手すぎない清楚系。
しかし、
これを見るとますます高校生の涼子と結婚したがる理由が不純なものにしか思えない。
涼子は自分の容姿が 十人並であることは重々承知だし、スタイルだって思春期特有の腹肉が摘まめる程度の肉付きで明らかに太っているわけではないが、本人は気になる今日この頃といった感じ。見た目の美しさでは彼女らに劣る。それを、結婚に乗り気?らしいと言うのは―――。
″永倉″のネームパワー欲しさ…。
こんな相手と結婚なんてした日には…。
(バカにされて、愛人つくられて、社交の場に引っ張り回されて、柳沢様の顔を立てることをひたすら強要されて…etc、etc、orz。)
涼子は考えただけでも地の底に沈みこみそうな気がする。
「本当に(美人ばかりで)、こちらの方々のどなたかと御結婚なされればよろしいのに…。」
「面子大事な政治家一族ですからね。票にならない嫁はいらないってことでしょうね。」
満里は言った。
「情けないですわ!票ぐらいご自分の力でどうにかなされば良いのに!」
涼子は憎々しげに言うと紗也が椅子で舟を漕ぎながら
「ンな事よりさー。どう嫌われるか決めよーよ。あたしがブスメイクするとか、わがまま言いまくってクソ女演じるとか…。」
と話を本筋に戻した。
「けれど、柳沢様と接点が…確かに教育実習でいらっしゃいましたけど別のクラスで学ばれるようですし、結局授業が終わった後もお声を掛けていただけませんでしたわ。」
「えー?だってそれはさぁ。ママを押さえてればリョコちゃんは何とでもなるってことじゃない?」
「うーん………………………………。」
三人は考え込んだ。
そもそも何らかの接点を作らねば嫌われない。
と、ここで満里が思いついた。
「そうだ!…紗也さん涼子さん!押しの強すぎる女性ってウザくないですか!?」
「押し?」
涼子と紗也が同時に尋ねた。
「そう!″押し″です!その気もない相手にグイグイこられたら嫌気がさすのでは!?こちらからドンドン接点作ってマイナス得点を稼ぎやすいと思うんですが…。」
「!!…確かに!」
涼子は一筋の光明を見た気がした。
「マジ卍でリョコちゃんのブスメイク気合いいれるわ!!」
「それではアニ同全員全力で臨みましょう!」
「おー!!」
満里の掛け声と共に三人とも拳を振り上げた。
こうして″対イケメン嫌われ大作戦″が実行に移されたのであった。
時を同じくしてイケメンこと柳沢敬一は永倉家のリビングにいた。冴子から呼び出しを受け涼子の帰りを待っていた。
「涼子さんは部活動を熱心になさっておいでなのですね?」
敬一はにこやかに言った。すると冴子は
「えぇ。あの子ったら電話にも出ないで…申し訳ありませんわ。」
「いえいえ。急ぎませんから。」
「それにしてもあの子もきっと喜ぶわぁ。」
「だといいんですが、気の効いたこと一つ言えない僕なんてつまらないでしょうし。」
敬一は軽く頭を掻いた。
「そんなご謙遜なさらないでぇ。今日から敬一さんが暫く我が家にご滞在なさるなんて知ったら大喜びですわよ!」
そのころ、ブスメイクを覚えている途中の涼子は虫の知らせか謎の悪寒に襲われた。
「い嫌だわ。ストレスかしら?」
涼子は自分の両腕を抱いた。
「もう下校時刻ですし今日はここまでにしますか!」
満里が言った。
「この顔ならイケメンもその気失せるっしょ!」
紗也は得意満面である。
「このまま帰るのは少々勇気が要りますが背に腹は代えられぬと言うもの…暫くこの顔でやってやりますわ!」
涼子は気合いをいれた。家に帰ったら待ち構えているものなど知らずに…。
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