第2話 独立ってどうすればできるのかしら?

 先日母から強制婚約を言い渡され更には集めたグッツも廃棄される悲劇に見舞われた涼子、しかし、思い立って独立を決意。が…。

 涼子は早速困っていた。

 スマホで″自立″とワードを入れてみれば″障害持ちのための自立アイデア″とか″急増する自立できない若者″とか考察ばかりで具体的な解決策は見当たらない。


 どうすれば独立ができるのかしら?


 そう涼子は何を隠そう元公爵家の古くから続くお金持ちの温室育ちのお嬢様。

 お買い物なんて普段着(ウン十万するハイブランド)をカードで買うかオタグッツは全てネット通販でお小遣い通帳から引き落とし程度。お金なんて生まれてこの方触ったことがないし、通帳記入もしたことないからの額の変動なんて全く知らない。領収書は全て父の秘書が管理しているので金額すら知らない。

 勿論、炊事掃除もやったことがない。

 それより何より労働をしたことがない彼女…。

 アルバイトも考えたが未成年だから親の許可がいる。あの母がいる限り親の許可など下りる筈もない。

 結局親を頼らざるおえず自立からはほど遠い。

 涼子は春麗うららかな空を見上げた。

 桜吹雪が美しいのが恨めしい。


 何も出来なさすぎて何から始めればいいのやら…。


 確かに私。習い事の量は半端ではございませんでしたわ!

 だけどっ…!

 それら全て役に立たないなんてっ!!


 彼女の習っている英語やフランス語は日常会話が中心で簡単な読み書きができて通常会話で困らない程度とても人に教えられるレベルじゃないし、バレーも立ち居振舞いを美しくするために習っていたものだったから高校生になってからは辞めさせられたし、そもそもバレリーナのなれるほどの才能はなかった。ピアノも普通には弾けるけれど演奏者としてやっていけるほど上手くはない。この点で一番自信があるのはお茶道だが師範の免許取得は母に″貴女は家庭にはいるのよ!?貴女は家庭を支え社交をこなしていかなければならないわ!そんなもので遊んでいる暇はないのよ!″等言われて許可していただけなかった。

 それにしても未成年は肩身が狭い。何かと言えば親の許可、子供に自由は与えられない。

 ネットで調べたときも″ 最近若者が自立できない″とさも若者が悪いように書き立てる記事も多数見受けられたが、この国は親にいちいちお伺いをたてなければ子供は何もできない。そんなことで″全く!自立すらできないとはけしからん!″などと憤慨するのはお門違いと言うものではないだろうか?

 子供の行動を制限しておきながら年齢が来たから自立しろっ!と言うのは横暴にも感じる。


 キーンコーンカーンコーン…。


 そんなことを考えていたらお昼休みが終わってしまった!

 涼子は青息吐息で教室に戻っていった。

 教室に戻ると何だか教室が騒がしい。しかも何だか見られている…?すると同じクラスの美作芳佳みまさかよしかが声をかけてきた。

「涼子さん。お聞きにしましたわ!もうご婚約なさったのですってね!おめでとう!!」

「ありがとう芳佳さん。お母様から伺ったのかしら?」

 涼子はにこやかにお礼をいいながらも内心はげんなりとした。


 お母様ったら!正式な婚約もしていないのにもう周りに言い触らして!

 第一、私は結婚したいだなんて一言も言っていないのに!!!


「えぇ。それもございますけど婚約者でらっしゃる柳沢敬一様が教育実習で明日から学校にいらっしゃるそうですよ?皆さんそのお話でもちきりに―――。」

「何ですって!!!!!!!?」

 涼子は青ざめた顔で絶叫した。

 この様子に芳佳は勿論クラスメイト全員が驚いた。


 しまった!要らぬ注目を集めてしまったわ!


 涼子は咳払いをすると体勢を整え

「失礼。取り乱してしまいましたわ。聞いてなかったものですから…。」

 と言い繕った。すると

「まぁ…。そうでしたの。そのー、もしかして…涼子さんはご婚約に乗り気ではありませんの?」

 何だか少し遠慮がちに芳佳が尋ねてきた。

 こう言うスキャンダラスな話題に魅力を感じるのは上流階級でも同じである。先程のように取り乱していては餌食にされるのは言うまでもない。


 あぁ。私としたことがなんたる失態!

 何と誤魔化せば良いのかしら?


 涼子は必死に考え

「じ…実は、そのお相手の方は大変優秀な方なのだとか…それで…私は出自だけは大層なものですが、実際の私は凡庸そのもの…学校の私生活をお知りになられたら、さぞガッカリされるのでは?と、恐ろしくて…。」

 とそれっぽく聞こえるように答えた。

「まぁ…!心配には及びませんわ!!だって柳沢様からのお申し出とのことですわよ!!」


 ファッ!!!!!!!?


「え?それは本当に??」

 涼子は寒気にもにた震えを感じた。

「えぇ!うらやましいですわ!!あんな素敵な方と両思いだなんて――――!」

 涼子はひどく混乱した。


 ど…どういうこと!?

 柳沢様は乗り気なの!?

 何で???????

 会ったこともない小娘に?


 そうやってぐるぐる考えている内にいつの間にか授業は終わり気が付けば放課後の部活動の真っ最中であった。


 アニメ同好会


 部員が3名しかいないので部としては正式に認められず同好会となっている。当然部費も与えられないので元物置きの空き部屋を借りて細々と活動しているのだ。

「それにしてもいいなー。スパダリと婚約とかーマジうらやまっ!!」

 PSPをいじりながら鴨居紗也かもいさやが言った。

 彼女はレイヤーなんかもやってるオタで自撮りが天才的にうまい。写真写りが良すぎてもはや詐欺写のレベル。

「うらやましい!?でしたら代わっていただけまして!?」

 涼子はキッと紗也の方を向いた。

「まーでも、代々政治家…。大分お堅そうなお家ですね?オタ活とか許してくれなさそう…。」

 と園田満里そのだまりがパソコンで原稿を仕上げながら呟いた。

「なさそう?ではなく…ない!絶対に!だって!イメージ戦略で生計立ててるようなものですわよ!?なのに妻が腐女子だなんて絶対に許されないわ!!」

 涼子は喚いた。それを聞いて紗也はPSPから目を放し

「えぇー!まじか。それは辛みぃ。やっぱオタに理解ないとやってけんわ結婚だしね。てかリョコちゃんマジ時代錯誤じゃん。結婚相手親が連れてくるとか親として毒過ぎー。ウチ普通で良かったー!」

 と言ってパイプ椅子の背もたれにもたれ掛かった。

 紗也の家はごく一般家庭で(と言っても父親がそこそこ有名なゲームデザイナーで貧乏ではない。)涼子達のかよう学校では珍しく普通の

「本当に。紗也さんったら!私の方が何倍も貴女のことが羨ましいわっ!」

「でもどうするんです?このままだとベルトコンベアのように結婚に持ち込まれるのでは?相手も乗り気みたいですし?もしかして制服萌え属性…?案外オタに理解あるかもしれませんよ!?」

 満里が振り返って涼子を見ていった。すると涼子は

「まぁ…相変わらず想像力が逞しいですわね満里さん。でも…」

 ズイッと満里に近づくと

「あの!母が!選んできた人ですよ!?万が一にもそんなことあると思いまして!?」

 と言った。

 そう言われて満里と紗也は今までの涼子の母、冴子の所業を思い出した。

 そして、二人声を合わせて断じた。

「ナイな。」

「ナイですね。」

「でしょう?」

 涼子は絶望に顔を埋めた。

 すると思い付いたように紗也が言った。

「ねーねーリョコちゃん!その婚約者にとりあえず嫌われてきたら?少なくとも次の婚約者連れてくるまでは多少時間がかかるだろうし、少なくとも卒業→結婚は免れるかもよ?そうすれば自立しやすくならない?」

 しかし、

「でも…相手は代々政治家の柳沢様。お父様がお困りに…。」

「涼子さん。」

 満里が真剣な顔をした。

「貴女のお父様は大人だものご自分のことくらいどうにかなる。涼子さん貴女自身はどうしたいの?」

 そう聞かれて少し表情を曇らせ涼子は暫く沈黙した。

 そして、重い口を開いた。

「―――――――私は…私、今まで自分自身のものがなくて…この世界を知って…初めて私の好きなこと…。それを手離すくらいなら、結婚なんか…結婚なんか…うぅっ。」

 涼子は泣き崩れてしまった。

 彼女は自分が思っていた以上に様々なことで傷ついていたのだ。

 彼女に対して理解や歩みよりの一切ない母親。

 結婚して失われる自分らしさと長く続くであろう自己否定。

「じゃあ決まり!」

 紗也と満里が涼子に歩み寄り涙を拭った。

「婚約者に嫌われるぞっ!!!」

 しかし、隣に友達がいる頼もしさがある。

 涼子は立ち上がった。

 涼子の戦いは今始まったのだ。



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