温室育ちのお嬢でしたが全てを腐女子ライフに捧げています
泉 和佳
第1話 婚約なんて聞いてない!
あの頃、私まだ何も知らない純粋無垢な小娘でございました。
世界の中心はごく限られた富裕層のお歴々やそのご息女ご子息。それ以外の世界など知る由もありませんでしたし、また機会も当然ありませんでした。それに母は外の世界を極度に嫌っていますから私自身も避けている節がございました。
けれど…忘れもしない二年前。
私は出会ってしまったのです。
あのめくるめく禁断の扉に…手をかけてしまったのです。
そう俗に言う『BL』に。
あの頃まだ中学生になったばかりの私は英・仏の語学学習、お茶道、ピアノ、バレー等々に式典パーティーの出席が重なり月のほとんどは休みのない日々…。確かにパーティーでのお喋りは楽しいものですし、習い事もどれも嫌いではないのです。無いのですが…自由になる時間と言うのか、誰の目も気にせずに過ごせる時間と言うものがなく…あれがストレスだったのでしょうか?澱のように何かが心の底で溜まってゆく…。
そんなある日、お父様のお知り合いの方のパーティーにお呼ばれした時でした。
会場のホテルの外を気晴らしにウィンドウショッピングしていた時、植え込みの隙間に濃い緑色の本屋さんのものと思しきビニール袋が…。普段はそんなもの気にもとめないのですが何故かその時だけはどうしても中身が気になってしまって中を見てしまったのです。
中にあったのは単行本のコミック。表紙絵はブレザー姿の美青年二人が絡み合うもので題は『背徳の楔』。
男性同士が引っ付いているなんて変わった絵だなとは思いましたが、中を開くまで何が背徳なのかさっぱりわかりませんでした。
ですが…
あの胸の高鳴り、興奮、えも言えぬ背徳の香り…。
私はすっかり虜となりズップリとのめり込んでいったのです。そして、私は止まりを知らぬ欲望の渦に自ら身を投げるようになり、気付けば部屋は埃臭い油絵は姿を消し代わりにポスター、乙ゲーのスクショを特注で拡大コピーした印刷物、等身大フィギュアに抱き枕、コレクションしたアニメDVD等々…。
今や私の至福はこの押しキャラに抱かれるがごとく埋め尽くされた空間でゲームのスチルを集めたりガチャで一喜一憂すること(勿論全てがBL)…。
なのに
「貴女、最近は目に余るものがありますわ!だから貴女のために考えましたの。貴女、もう婚約なさいな。」
……………何ですって!?
「お母様!いくらなんでも横暴が過ぎましてよ!私、まだ16才だと言うのに!!第一、法律上まだ結婚も許されて間もない娘に縁談なんて来るはずもありませんわっ!」
涼子は必死に叫んだ。ところが涼子の母冴子は不敵な笑みを浮かべる。
「心配には及ばないわ。もうお相手は見つけてきたから。お相手は代々政治家の柳沢様のご長男よ。お家柄も申し分ないし年も3歳上で釣り合いがとれるし、あのT大法学部にご在席で大変優秀なのよ!だから!貴女は顔合わせにいらっしゃればいいだけのことよ?」
な…!
これを聞いて涼子のショックは
涼子に逃げ道はないのだ。
「せっ…先方は私の趣味をご存じでらっしゃるのですか?」
「知っているはずがないわ涼子さん。恥ずかしいのだから言えるはずないでしょう?」
「っ!そんな…!では…」
「だから!これを機にスッパリと止めてしまえば良いのよ?」
!!!!!!!!!!!?
涼子の頭の中では母の″スッパリ止めてしまえば…。″が数回反芻し直ぐには理解が追い付かず真っ白となった。
止める?止めるって?
押し事(おしごと)を!?
今まで集めたグッツは!?
涼子は恐る恐る尋ねた。
「私の部屋のコレクションは?どうなるのですか?」
「あぁ。あのガラクタの山は業者を呼んで撤去させておきましたよ。もう。全く…ウンタラカンタラ。」
涼子はその瞬間灰となった。もはや母の話など耳に入ってこない。
がらんどうになった床ばかりが目立つ自室に涼子はどこをどう歩いて戻ったか判らないほど茫然自失となっていた。
気が付けば、元の埃臭い油絵が掛けられた面積が広いのに息苦しい部屋にポツンと立ち尽くしていた涼子。
そして、涼子は想像した。
婚約相手は代々政治家の御家とかお母様おしゃっていたわ。
代々政治家…。
体面と世間体が何より大事なお家柄…。
と言うことは妻が腐女子で重度のオタクだなんて許されるはずがない。
結婚しようものなら趣味が全部犠牲になる!?
涼子は絶望した。
そのままソファに倒れこみ偶然にもTVのリモコンのボタンを押した。
かかったのは録画していたアニメの再生。
未来の旦那様はこれくらいなら許してくださるかしら?
そんなことを考えながらボーッと見ているとやがてCMになり政党の選挙応援CMが流れ出した。
涼子はこんなもの見たくなかったのにとフッと笑みを浮かべて眺めていたのだが、
『この国の女性には底力があります!今こそ女性は社会で躍進していく時!』
とマニュフェストのうたい文句を流し始めた。そして、
『女性独立宣言!!』
とプロパガンダを流した瞬間、涼子は雷に打たれたように思い付いた。
そうだわ!独立よ!
家を出て独立すればいいんだわ!!
こうして涼子はオタ活を謳歌し続けるために独立を決意するのであった。
果たしてガチな温室育ちのお嬢様に独立ができるのか!?
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