7-2
改札前の壁に凭れ掛かっていた自分が眺めていた駅前に赤黒ツートンのボディカラーでスポイラーが一体式の大型樹脂製フロントパンパーとサイドスカートのエアロタイプのアルミホイールを履いたミラターボTRが横付けされ、助手席のパワーウィンドウが下りたのを見て小走りに近寄る。
「すいません、こんな所まで」
俺が覗きこむ様に挨拶をすると、予定より10分程早く姿を現した美香さんは、
「ま、気にしないで」
と、左手を挙げて微笑んだ。
そのままの流れで喫茶店まで誘導し、駐車場でエンジンが切られたミラから外へ出たコバルトブルーのTシャツにウルトラマリンのYシャツで白いパンツの先輩とありきたりな店構えの扉を開け、こじんまりとした何処かと似ている店内の奥にあった四人席へカウンターを左手にして進み、赤味がかった革の風合いにクラックの入ったソファーへ腰を下ろす。
その矢先に野太い声の男性に注文を聞かれ、
「何にしますか?」と隣に振ると、
「アイスティーかな」との答えが返って来たので、
「アイスティー二つで」とオーダーをし、時間帯なのか田舎だからなのか他の客が居ない物静かな空間で美香さんに「今日仕事は?」と問いかけてみた所、
「ママには許可を取って休みにしてもらった」と髪を掻き上げながら言われ、俺は申し訳なさを含めて頭を下げるを得なかった。
間を置かずに入り口が開いて朝と同じ格好で前髪を外巻きにした同級生が姿を覗かせ、肩紐の細いタイトなサロペットスカートにボーダー柄の七分袖Vネックシャツの女性を引き連れて自分たちの席に向かって通路を歩き進んで来る。
「おまたせ。こちらが沙織さん」
近寄った即座に立ち止まって打合せに足を運んでくれた久賀の姉を紹介してくれたが背後に店員が張り付いていたらしく、その体を交わすと大きめのグラスをトレーに乗せず両手に鷲掴みで運んで来ていて、いらっしゃいの言葉と共に自分達の目前に飲み物を置いた傍からその相手に注文を伺われた二人は、然程時間を掛けず続け様に同じものでと返答し壁側に座っていた俺の正面に大崎が腰掛け、大きめの
「今回はわざわざありがとうございます」
心底からのお礼を正直に表し二人に対して一礼する俺が頭を上げる前に、
「いいのよ」と優しい声が聞こえ、顔を上げ切った時に、
「ノブに関係する事なんでしょ」と答えていたのは軽く眉間に皺を寄せたお姉さんの方だった。
「実はね、今回の件で両親は愛想を尽かし関わりたくないと放棄したんだけど、私だけは味方でいようと思っていた矢先にこの話が来たのよ」
寂しそうであり悲しそうな何とも言えない面持ちで語る相手の今日に余計な心労を加える相談を持ち掛けてしまったらしい自分はその後俯き加減になるしか出来なくなり、静寂が少しの間来るべくして訪れたが、
「で、何を調べたいんだったっけ」
そう切り出してくれた美香さんに助けられてその間は取り持て、これを機に俺はグラスを直接口に当て、一飲みして喉を潤してから対話を始めた。
「はい、奴が誰を
「具体的には?」
隣から中身をストローで掻き混ぜながらの力添えが聞こえ、自分の思惑を述べる。
「親が被害者の名を正確に覚えていなくて、っていうニュアンスで聞いてもらうか、暴力団の人を手に掛けたのかを問い質してもらうとかが良いかと」
これに承諾を受けたらしく三人三様で頭を軽く縦に振り、そして俺は更なる要求をした。
「ソレを久賀から喋る様に持って行って欲しいんです」
「その意図は?」
今度は何時の間にか前のめりになっていた大崎が追求してきたので、どちらかと言えば美香さん側を向いていた首を回して話を進める。
「揺さぶって貰いたい。要は死んだのがやくざかテキ屋かでも判ればいいんだ。
そして願わくばソレが噓かどうかを見極めて欲しい」
自分でも難易度が高いと感じていたこの返答には流石に前の二人がほぼ一緒に表情を曇らせ、俺は隣と同時に目が合う。
「本当の事を言ってるかどうかは私なら区別付くかな」
ポソっとそう口を開いたのは姉の方だった。
「うん、お姉さんが相手なら向こうも事実を言ってくれると思う」
追って大崎が賛同し、自分は相槌を打ってもう一つお願いをする。
「それと、出頭した時間が知りたいです」
ここまでムーンライトで打ち合わせた全内容を反復する形で対面の二人に告げ終えた俺にまた三人が頷いてくれ、美香さんはセカンドバッグを弄ってメモ帳を取り上げて隣で記録に残し帳面を閉じる間に俺が久賀が自首した事に関しての経緯を姉に確認すると、あの日に別れた晩遅くに警察からの連絡があったのは間違いなかった。
続けて今回何故手伝ってくれるのかを尋ねると、一人の女性が被害に遭い命を落としている事に胸を痛め協力を惜しまない、と語ってくれた。
その後の女性三人は誰が主導権を握るでもなく翌日の待ち合わせ時間と場所を決める会話を始める。
(ここに居る女性達の想いこそがレイコへの何よりの弔いになる。
久賀は
そうではなかった時には如何すべきなのか。
あいつは何時警察に出向いたのか。
時間が空いていたのなら奴が墓にライターを供えたのか。
あそこに置いたのは持ち主本人であってくれ)
それから話が纏まった事を両肘をテーブルにつき神に祈りを捧げる様な形で交差させた親指を額に当てていた自分の隣から肩を叩かれて知り、
「じゃ、また明日ね」
と手を挙げた大崎が沙織さんと揃って席を立ち離れ、それを追うかのタイミングで尽力してくれた美香さんも出口に向かっていた。
俺は遅ればせながら頭を下げ、立ち上がって後ろ姿に再度一礼をし、扉が閉まるのを確認してから通路側のソファーに倒れ気味に腰掛け、天井を仰いで大きな溜息を深く長く吐いて今日が終わった事を我が身に教えた。
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