四月某日、東京に雪


 ――――あ、雪だ。


 灰色の空からはらはらと落ちてくる、真っ白なそれ。

 今日は四月にしては寒いな、と思ったけど、まさか雪が降るまでとは。


「珍しいなぁ。東京で、四月に雪なんて」


 珍しい、なんて言葉で片付けていいものじゃないのかもしれない。

 異常気象、というやつだろうか。


 でも、空から落ちてくるそれは、私は嫌いじゃなかった。

 だからこそ、どこかほっこりしているんだと思う。


 信号が青に変わって、皆が雪から逃れるように走り出すけれど、私は空を見上げて、降っている雪を見ていた。


 地元である北海道にいた時は、懲りずに降り、鬱陶しいくらいに積もっていく雪が好きではなかった。

 だけど、地元を離れてると、その好きじゃないものにさえ、愛着というか、懐かしさというか、そういうものを覚えてしまうのだから、不思議だ。

 あると好きじゃないけれど、ないと寂しいもの。


 東京は雪が少なくて、別世界に来たみたいで、少しだけ不安だった。

 私はこの地でやっていけるんだろうかと、きゅっと胸が鳴った。


「……元気にしてるかなぁ」


 地元に当たり前にあったそれを見ると、ホームシックが襲ってくる。

 東京に出てきたのは、もう一年前だっていうのに。もう慣れたと思っていたのに。

 やっぱり、どこかぽっかりと穴が空いた感じだった。


 ほろりと顔に雪が当たって、それはあっという間に溶ける。

 消えてしまうことは切なかったけど、でもその冷たさは安心した。


「……頑張ろう」


 人知れず呟いて、私は一歩進み出す。


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