それでも魔女は毒を飲む

 その森の奥には、毒を飲み続けている魔女がいるという。

 毎日毎日、違う毒を体に含み、死ねないと嘆いているという。



 –––––––死ねない。今日も死ねない。



 誰かが聞いたことがあるという。

 どうして魔女さまは、毒を飲み続けるのですか、と。


 魔女は言った。

 死にたい。死にたい。


 魔女は言った。

 死への渇望だけが、私を私としてくれる。

 毒の苦しみだけが、私を私としてくれる。


 魔女は言った。悲しそうに言った。

 この行為だけが、私が生きていることを証明してくれる。



 その森の奥には、毒を飲み続けている魔女がいるという。

 その魔女は、生きていることを証明するために、死へ誘う毒を飲んでいるという。


 その思いこそが、死なない原因だと、魔女自身は知らない。

 その思いを捨てない限り、魔女は死ぬことはない。

 どんな毒物を飲んでも、魔女は死なない。



 それでも、魔女は毒を飲む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る