明日何の日

「ねえねえ、明日は何の日か知ってますかぁ~!」


 やけにテンションの高い幼馴染の犬村が、俺の体をゆすってくる。


「明日? なんかあったか?」


「またまた~。わかんないふりしなくていいって」


「う~ん」


「ええ、マジで忘れてるの?」


「あ」


「え」


「明日そういえば、数学の小テストだったな」


 そんな俺の言葉に、犬村は顔を真っ青にした。


「え、明日、数学の小テスト……?」


「先週から言ってただろ」


「えええ、嘘嘘嘘嘘嘘。聞いてない! 勉強してない!」


「お前、嘘だろ……」


 明日の誕生日を心待ちにしてる場合じゃないだろ……。誕生日っていうか、誕生日プレゼントなんだろうけどな。


「いっくん。たすけてぇ」


 犬村が目をうるうるさせながら、俺にくっついてくる。

 女子特有のふくらみがむにゅん、と俺に押し付けられる。ついでに、上目遣い。


 どきっと胸が鳴るのは仕方ないだろう。

 好きな子にこんなことされたらたまらない。


 というか、こいつの本心がわからない。

 十中八九、幼い頃からの感覚でやってるんだろうが、女子は何を考えてるのかわからない。

 俺に言うことを聞かせるために、わざとこういうことをやっているのかもしれない。

 油断はできない。


「いっく~ん。いっくんだけが、頼りなの……」


「……わかったよ! ほらさっそくやるぞ!」


「ほんと?! ありがとう!」


 犬村は屈託のない笑顔を浮かべた。

 やっぱりその笑顔は可愛くて。


 ……絶対狙ってるだろ。


 そうとしか思えなかった。


 とりあえず、誕生日プレゼントはちゃんと渡してやろう。




*三題噺「心待ちにする」「本心」「屈託のない笑顔」

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