怪異に対する現代の扱い

 哭声、哭声、哭声。


 冬の空の下に、哭声が響き渡る。


「誰の声?」


「五月蠅いんだけど」


 泣き叫ぶ声を聞いていた人たちが不可解に思い、ざわざわとしだす。


 どこからか聞こえる、泣き声。それもただの泣き声じゃなくて、叫ぶような声と混じって聞こえてくる。

 正直、気味が悪かった。


「冬の体育、ただでさえテンション下がるし、寒いのに、こんな意味わからない声聞こえてくるとか、マジ最悪なんですけどぉ」


「それな~。不気味だから、少し震えが止まんないわ~」


 女子高生たちが、本当に怖がっているのかと思うような高い声音で、きゃっきゃと会話を交わす。


「せんせー。何とかしてぇ。このままじゃ、うちら怖くて体育できないよぅ」


 一人の生徒にそう言われた教師は、ドキッとした顔をする。


「何とかして、と言われてもな」


 まだ20代の若い男の体育教師。一般的にイケメンに分類されるが、極度の怖がりのため、生徒たちからはからかわれる対象となっていた。


「せんせー、顔真っ青だよぅ。なになに、せんせー怖いの?」


 誰かのそんな言葉に、皆がきゃっきゃと笑い出す。

 何が面白いのか、教師にはさっぱりわからなかった。こいつら、本当は怖くないだろ、という確信さえ持てた。


「怖くて悪いか!」


 逆切れするように教師は言う。

 一瞬の静寂。


 そして、爆笑。


「まじで認めちゃったよぅ」


「まさか認めるとは思わなかったわぁ」


「せんせー、もっと頑張ってくださいよ~」


 くすくすくすくす、生徒たちは楽しそうに笑った。


「なんでそんなに、怖がりなんですかぁ? まさか幽霊みたいなのに弱みでも握られてるの?」


「そんなことはないが、怖いものは怖いだろ!」


 顔を真っ赤にさせながら、反論する教師を見て、生徒たちはさらに笑った。



 いつの間にか、哭声はやんでいた。




*三題噺「哭声」「弱み」「冬の体育」

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