貴方の好きな物

「ねえ、貴方に自己顕示欲ってものは存在するの?」


 図書室のカウンター当番が同じの、彼女は暇つぶしに、そんなことを聞いてきた。


 僕は本に目をやりながら、彼女の質問に言葉を返す。


「人並みにはある」


「絶対、嘘」


「どうしてそう言い切れるんだい?」


「貴方にそんな欲があるなら、私の話より本なんか選ばないもの」


「それは本に対して失礼だろ」


「本に失礼も何もないわ」


 つん、と彼女は拗ねてしまう。


 彼女は美人だ。透き通るような白い肌、唇や頬は何もしてないのにほんのり赤に染まっている。手や足は折れてしまいそうなくらい細く、だけど女性の魅力的な部分にはしっかりと肉がついている。

 彼女の性格も明るくて気配りもでき、クラスでは男女問わず人気者だ。


 そんな彼女が何故、こんな図書室でカウンター当番をしているのか。

 僕にはそれが疑問でたまらなかった。

 しかも、僕に対して少しあたりが強い。


「君は僕に何を求めているんだい?」


「まだわかってくれないの。これだから、本とお友達は嫌なのよ」


「言葉にしないとわからないこともあるだろ」


「それを言ってしまえば野暮ってものよ」


「……?」


 彼女が何を言いたいのか、本当にわからなかった。

 だって、彼女とは週に一回のこのカウンター当番でしか話さないんだから。


「夕方のプールの方が貴方よりずっと鋭いわ」


「なんでそこで夕方のプールが出てくるんだ」


「あら、こういうの文学的な感じ、しない?」


「文学をなんだと思っているんだ」


 ため息交じりに僕は言うと、彼女は満面の笑みで答えた。


「貴方の好きな物」




*三題噺「図書室」「夕方のプール」「自己顕示欲」

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