愛する貴女について

『私の愛する人は清廉潔白な人でした』


 その一文から始まる遺書はまるで小説のようだった。


 『愛した人』について、事細かに書いてあった。

 出会いも、思い出も、好きなものも、嫌いなものも、癖も。

 髪の色も、肌の色も、爪の色も、瞳の色も。

 身長も、体重も、視力も、足のサイズも、指のサイズも。


 気色悪いほどに、詳しく書いてあった。

 でも、その文章は清廉されていて、不快感は感じなかった。


『私の愛する人は花束のような人でした』


 遺書はこうやって閉じられていた。


 『愛する人』のことは分かったが、『私』のことはわからない、そんな遺書だった。




*三題噺「遺書」「清廉」「花束」

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