いつまで大事にするんだよ

 真っ赤な夕日が差し込む部屋で、私はお気に入りの文庫本を読んでいた。


「なあ」

「どうしたの」


 目の前には幼馴染みで彼氏の雄馬君がいる。


「それ、いつまで大事にしてんだよ」

「それ?」

「その、割れたマグカップ」


 棚に飾られてる、割れたマグカップを指さしながら、雄馬君は言った。


「え、だって、大事なものだし」

「割れたマグカップが?」

「うん。だって、雄馬君が初めてプレゼントしてくれたものだし」

「そんなの大事にされても困るんだけど」

「何を大事にしようが、私の勝手でしょ」


 少しだけ、腹が立ってしまって、私はまた文庫本に目を向ける。

 たとえ、雄馬君でも、あのマグカップを侮辱するのは許せない。


「あ~、悪かったって」


 私が不機嫌になったのを見かねて、雄馬君は謝ってくる。

 そして。


「ん、これやる」


 と、お洒落な紙袋を私の前に突き出してきた。


「何これ」

「誕生日プレゼント」

「あ、そっか。私もうすぐ誕生日か」

「忘れてたのかよ」


 ありがと、と笑いながら言って、紙袋を受け取る。


「開けていい?」

「好きにすれば」


 雄馬君から許可を貰えてので、私は遠慮なく包装を解いていく。

 中に入っていたのは……。


「マグカップ?」

「そうだ」


 ピンクと白の水玉柄の可愛らしいマグカップだった。


「だから、割れたのより、こっちを大切にしてくれ」


 少しだけ頬を赤く染め、雄馬君は言う。


「ふふふ、ありがと。こっちも大事にするね」

「こっちもって……」

「どっちも大事にするに決まってるでしょ。なんせ、雄馬君からのプレゼントなんだから」

「……好きにすれば」


 雄馬君は照れながらそう言った。




*三題噺「夕日」「文庫本」「割れたマグカップ」

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