檸檬の蜂蜜漬け

 もうすぐ、高校生になってから初めての大会がやってくる。

 日付が変わるたびに、僕は胸がざわざわするというか、焦燥感に襲われるというか、とにかく精神状態が良くなかった。


 焦りと緊張。

 練習してもしても、不安が消えることはなかった。


 大会前の追い込みの練習を終え、輝く星夜の下、帰路についた。

 なんだか、輝いてる星が痛かった。


 家に着くと、まずポストを見るのが僕の癖だ。

 別に自分宛のものが届いているわけでもないし、そもそも母がその前に回収してしまう。

 でも、ポストを見てしまう。


 はあ、とため息を落としながら、僕はポストの中を確認する。


 そこには、タッパーに詰められた檸檬の砂糖漬けがあった。


 なんだこれ、そう思って手に取って確認すると、タッパーの上に桃色の可愛らしいメモ帳がマスキングテープで張ってあった。


 そこには、『頑張って』とだけ書かれていた。誰からなのかも誰宛なのかも書かれていなかった。ただ、『頑張って』とだけ。


 だけど僕は、これが誰からなのかわかった。

 この字には見覚えがあった。


 僕はタッパーの蓋を開け、輪切りになった檸檬をひとつ口に放り込む。

 甘いけど、酸っぱい。でも、不思議と口の中に馴染んだ。


 少しだけ、心が軽くなった気がした。





 *三題噺「檸檬」「ポスト」「焦燥」

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