カプセルにひとり

「ねえ、いつまで私をここに留めておくつもりなの」


 彼女の凜とした声はこもったような音を出す。

 当然だ、彼女はガチャガチャのカプセルみたいに閉じ込められてるのだから。


「さっさと掬い上げるなり、堕とすなり、してよ」


 誰もいない空間に向かって、彼女はあきれたように言った。


 彼女の入ったカプセルは空中のある一定箇所に固定されたまま動かない。

 堕ちることも、浮かぶこともない。ふよふよと揺れることもない。

 パズルのピースがはまってるように、動かない。


「……やっぱり、声が聞こえたのはあれきりか」


 カプセルによりかかり、彼女は脱力した。



『ここから解放されたければ、パスポートを探せ』



 彼女の脳内によみがえる機械音のような抑揚のない声。


「パスポートねぇ……」


 停滞した空間の中、彼女は上を見上げた。カプセルの丸い縁が見えるだけで、何もない。


「そんなの、どこにあるのさ」


 その声は、カプセルの中に反響した。




*三題噺「掬い上げる」「パスポート」「堕ちる」

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