ゴミ屋敷の噂
私の家のある住宅街から少し離れたところに、ゴミ屋敷がある。
何年もそのままで、風に乗ってわずかに漂ってくる異臭はもはや日常のものとなっていた。
少しは慣れたが、それでも臭いものは臭い。
「……ねえ、本当に行くの?」
「ここまで来たのに怖気付くのかよ」
そんなゴミ屋敷には噂があった。
誰も住んでいないはずないはずの、ゴミ屋敷。でも夜になると電気がつくという。
その様子をケータイで撮ると、そこには血まみれの女が写っているという。
そんなありふれた怖い話を試すべく、私と
「ねえ、やめようよ……」
「
あはは、と楽しそうに賢也は前を歩く。どうしてこんなに能天気なんだろう。
「それにもうすぐだろ。嫌ならこんなところまでついてくるなよ」
「だってぇ、賢也が帰ってこなかったら、嫌だもん」
「お前、筋金入りの怖がりだな」
「こ、怖がりで結構ですぅ」
と、そんな会話をしながら、私たちはゴミ屋敷目指して歩いていく。
「お、つくぞ」
賢也はわくわくした表情を浮かべながら、私のことを置いて走っていく。
待ってよぅ、私は急いで追いかけるが、なかなか追いつけない。
はあはあ、と息を切らしながら、先にゴミ屋敷についた賢也に追いつく。
すると、賢也はがっかりしたような顔を浮かべて私を待っていた。
「やっぱり、嘘だったか」
「よ、よかったぁ」
ゴミ屋敷は真っ暗なままで灯りは付いていなかった。
「写真は撮ったの?」
「一応。何も写ってないけど」
ほら、と賢也がケータイの画面を見せてくる。
そこには真っ暗なゴミ屋敷が写っているだけで、他には何も写っていなかった。
「はあ、よかったぁ」
「ちぇ、つまんないの」
ホッとする私と残念そうにする賢也。
「まあ、いいから帰ろうぜ。臭いし」
「そうだね」
そう言って、私たちは大人しく帰路に着いた。
余談だが、次の日賢也は熱を出して寝込んだ。
その傍らには、ゴミ屋敷の灯りがついて、血まみれの女が写っているケータイがあったとか、なかったとか。
*三題噺「屋敷」「ケータイ」「電気」
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