何故だかはわからないが、僕は気がつくと星がよく見える高台にいた。

 隣には太陽のような笑顔で笑う、純粋で真っ直ぐな彼女がいた。


 今日の夜空は一段と澄んでいた。

 星々の輝きが僕らを照らしていた。月は見えないから、きっと新月なんだろう。


「あ、ヤカン座」


 彼女は赤く光る星を指差して言った。


「ヤカン座?」


 そんな星座あったかな、と僕は、星々を線で結ぶ彼女の指を見た。


「ふふ、今作ったの」


 だって、ほらヤカンの形じゃない。

 彼女は無邪気に笑った。


 確かに、既存の星座のなんの形をしているかわからない星座と違って、ヤカン座はちゃんとヤカンの形をしていた。ヤカンが夜空に浮かんでいた。


 彼女の手が、ヤカンの形を描き終える。


「ヤカン座、覚えておいてね」


 そう笑って、彼女は蜃気楼の向こうに消えていった。




 *三題噺「夜空」「蜃気楼」「ヤカン」

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