りとるますたーとまじょさま

「ねえねえ、まじょさま」


 まだ10歳にもなっていない幼い少女が、本を読んでいた魔女の服をつまんだ。


「どうしたんですか、私の小さな主人リトル・マスター


 魔女は本を閉じ、自分の膝の上に少女を座らせる。

 少女は嬉しさを隠しきれずに口角をあげ、頰を赤らめる。


「まじょさま、まじょさま。まじょさまは、かみさまにあったこと、ある?」

「神様、ですか。どうしてまた?」

「かみさまをしんじていれば、おねがいごとなんでもかなえてくれるんだって!」


 無邪気に笑う少女を見て、魔女の目がわずかに鋭く尖る。


「それは迷信ですよ」

「めいしん?」

「なんでもないです」


 純粋無垢な瞳で見つめてくる少女に、魔女はそれ以上言うことができなかった。

 代わりに魔女は、おまじないのような言葉を与えることにした。


「神様なんて頼らなくても、私が貴女の願いごとを叶えます」

「ほんと?」

「本当です」

「まじょさまだいすき!」

「私もです」


 魔女は少女を誓うように抱きしめる。


 この少女は、異形のものを呼び出す力を持っていた。そのせいで、少女は親から、村人から、国民から忌み嫌われ、森の小さな小屋に幽閉された。

 魔女はそんな少女に呼び出された異形のものだった。


 ––––––––––私は、私の主人の“楽園”をいつか創るのだ。


 それが魔女の誓いだった。


「可愛い可愛い、私の小さな主人リトル・マスター。私はどんな時でも貴女の味方です」


 そう呟いて、魔女は少女の小さな手に唇を落とした。




 *三題噺「神様」「迷信」「楽園」+「魔女」

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