春と期待

 毎日続く、過ごしやすい暖かな日。

 今、私は山田くんと待ち合わせをしている橋の下にいる。

 山田くんに、「話があるから放課後、あの橋の下に来てくれないか」と言われたのだ。この橋の下は、私と山田くんが出会った特別な場所。


 真剣な表情でそんなことを言われたものだから、なんだろうと、心臓を鳴らしていた。

 告白かな、告白だといいな。


 そんなことを考えて、落ち着かないでいると、山田くんがやってきた。

 緊張と期待が同時にやってきて、また胸が大きく音をたてる。


「待たせたな」

「う、ううん。大丈夫」


 平常心で答えようとするが、声が裏返る。


「それで、話って何?」


 なんでもないように聞いたが、心臓が煩いので、ちゃんと言葉を発することができたのか、わからない。

 怖くて、目を瞑る。


「……あのさ、おかしくないか?」


 身構えた私に飛んできた言葉は、予想外の言葉だった。


「……お、おかしいって、私が?」


 衝撃的な言葉に私は、声を震わせる。


「違う違う。えーと、上手く言えないんだが……、その、世界がおかしくないか?」

「へ?世界?」

「……もしかして、気がついてないのか?」

「え、何かあるの?」


 山田くんが信じられない、という表情を見せた。


「だって、ずっと春が続いているじゃないか」

「それがどうしたの?」


 何を当たり前なことを言っているんだろう、山田くんは。

 山田くんは今にも倒れそうなほど、顔を青くする。

 でも、山田くんがそんな顔をする理由がよくわからないから、私は言う。


「おかしな山田くん」




 *三題噺「春」「橋の下」「おかしな山田くん」

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