月下の歌姫

 夜になると、歌が聞こえる。

 その歌は、聞く人によって、感じ方が変わる。

 ある人は、子守唄だと言う。

 ある人は、鎮魂歌だと言う。

 ある人は、円舞曲だと言うし、ある人は、賛歌だと言う。


 様々な感情がこめられるその歌は、月の真下の塔で夜通し歌われている。

 緑色に輝く瞳を持つ、少女によって。


 何故、歌が歌われているのか。

 理由は単純で、夜が満足しないと朝がやってこないから。

 そして、夜を満足させられるのが、緑色の瞳を持つ少女の歌だけだった。


 少女は祈るように歌う。世界が朝を迎えられるように。


 そんな健気な少女を人々は、緑色の歌姫いけにえと呼んだ。


 少女は夜に捧げられた生贄だった。


 少女は歌い続ける。

 理由は簡単。


 世界を終わらせる歌を知らないからだ。



 歌う少女のいる塔の影が、夜に伸びている。





*三題噺「緑色」「影」「いけにえ」



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