世界線上の管理者
何の音もない、静かな空間。
そこ存在する一本の線を、私と同じくらいの大きさのハサミを持って私は歩く。
私は、“真の流れ”を管理している。
“真の流れ”とは、ひとつの世界のあるべき形のことだ。一本の線がずっと先まで伸びている。世界の終わりまで、ずっとずっと伸びている。
世界の線には、たまに偽りの線が木の枝みたいに伸びる。
その線をハサミでちょきんと切って、真の流れを真っ直ぐな一本の線に保つのが、私の仕事だ。
「あ、今回のはちょっと長いな」
偽りの流れが伸び過ぎてしまうと、ここで切ることができないので、偽りの世界に干渉して、原因をちょんぎるしかない。
そうして、私は世界に潜る。
●
偽りの世界は黒い雨が降っている。おかげで視界がはっきりしないし、世界の色はモノクロだ。
「お姉ちゃん、私と遊ぼう」
偽りの流れを形成している原因––––––“イレギュラー”の少女が、鞠を差し出してくる。
「そうだね」
私はそう答えながら、ハサミでちょきんと少女を切る。
少女の存在は黒い粒となって消えていく。
残ったのは、少女の持っていた鞠だけ。
これで世界は元どおり。
これが私の仕事だ。
そうして私は、また世界の線上に戻っていく。
*三題噺「雨」「鞠」「真の流れ」
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