妖精は知っている

 その図書館には、大きな大きな砂時計があった。人の大きさの何倍もの大きさがあり、最上部を見上げるのは困難であった。

 その砂時計を中心に螺旋階段が構築してあり、図書館自体も筒のような形をしていた。


 さらさらと砂は落ちてくる。ペース配分をしっかり守っているその砂は、透き通ったクリーム色をしていた。

 さらさらと落ちてくる砂を、何も考えずに黙ってみていた。


「ねえ、知ってる?」


 さらさらと落ちてくる砂に紛れて、小さくて可愛らしい声がした。


「この砂時計が全部落ちるとき、世界は終わるんだよ」


 秘密の話をする子供のように、その声は囁いてくる。


 くすくすと楽しそうに笑う声。

 落ちてくる砂の隙間に、妖精のような光の粒を見た気がした。



 砂時計を見上げて思う。


 まだまだ世界は終わらなそうだ。


 さらさらと砂は落ちてくる。





 *三題噺「妖精」「図書館」「砂時計」

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