第6件 悔やみ
「んっ…」
「ようやくお目覚めか、美子。」
「酒王さん?ここはどこなんですか?」
「ここは病院だ。屋敷近くのな…」
そうだ…確か玲子ちゃんが銀剛にとどめを刺して、そのまま気を失ってて…
「屋敷の皆は大丈夫なのですか…?」
「幸い大量に怪我人などが出ることはなかったみたいだ。ただ一人を除いて…」
「咲寺さんは…やはり…」
悔しかった…依頼人を死なせてしまったことが何よりも私は悔しかった…!!
「お前が苦しむことはない…全てあの妖怪の仕業なんだ。」
「ですが…依頼人を死なせてしまったのが私は物凄く悔しいんです…!もう少し私が早く気付けていたら咲寺さんは助かったのに!」
「俺だって悔しいんだ…!たとえ依頼人が脅されて共犯していたとしても、お前が考えているように彼女を救いたかった…!」
「……っ!!」
みんな…同じことを考えている…私達だけじゃない。みんなが咲寺さんを救えなかったことが悔しいんだ…
「今は気遣いせずにゆっくり休んでくれ。後で屋敷に向かえば良い。」
「分かりました…後日、屋敷に向かいます。」
「そうだ、お前の刀は知り合いの刀鍛治に直してもらっている。」
「ありがとうございます。なにからなにまで…」
「礼には及ばない。では、俺は行くぞ。」
ー数日後ー
「はじめまして、奈月(なつき)さん。私が妖怪退治屋の凛条美子です。」
「あなたが美子さんですね。今回の事件解決、ありがとうございました。」
奈月さんこそが私の勤めた屋敷の花魁だった。気品と美形を備えた奈月さんは花魁に相応しい人物であると一目で分かる。
「咲寺さんの件は本当にお悔やみ申し上げます…」
「誠に悲しいことです…花魁を目指していた千夜がいきなり殺されてしまったのですから…」
本当にそうだ…なんの罪もない咲寺さんが殺されなければならなかったのかと今でも考えてしまう…
「どうかお墓に行ってあげて下さい。そうすれば千夜もきっと喜びますから…」
「無論です。では、行ってきます。」
ーお墓ー
「咲寺さん…」
墓石には「咲寺千夜」としっかり彫られている。その真新しさが残る墓石は、どこか寂しさを表しているように思えた…
「咲寺さんの仇は取りました…花魁である奈月さんにもお会いしました。本当に素晴らしいお方でしたよ。」
私はお墓の前に一つの包を置いた。それは以前、咲寺さんから貰ったミルクキャラメルと同じものだった。
「あの時のミルクキャラメルです。お返しというのも難ですが、渡しますね。」
合掌、一礼をして私はその場を後にした…
ー数日後ー
刀が折れて、現在修復している途中ということで、妖怪退治屋の仕事はしばらく休業している。仕事が無いと落ち着かないのって、やっぱり私は仕事人間なのかなぁ…
『玉には外に出て街を見て回ったら?』
「そうしてみるよ。」
玲子ちゃんに言われて私は宿の外に出る。街はいつも通り活気に溢れていた。飲食店では親子が出入りし、雑貨屋には若者から年配の人達が押し入っている。
「美子。」
突然、私を呼ぶ声がした。
「酒王さん、酒殿さん!」
「よっ、ちょっと心配だから見に来たぞ!」
「それと、この前の刀の修復が終わったぞ。」
そう言うと酒王さんは蝶月輪を渡してくれた。
カチャ…
「鍛冶屋によれば、以前よりも少し強度を上げたそうだ。実戦で試してみると良い。」
「ありがとうございます。私のためだけにこんな優しくしてもらっちゃって…」
「俺達はお前の仲間だ。だから何も心配しなくて良いんだ。」
仲間がいるって凄く暖かい…私は本当に素晴らしい人達に出会えたのだと改めて認識した。
続く。
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