第4件 怒り

ズドンッ!!

酒王さんと犯人の妖怪が一緒に外へ投げ出された…

「咲寺さん!!大丈夫ですか!?」

「美子……さん…」

咲寺さんには辛うじて息がある。まだ助けられる!

「私は…あなたを…騙して屋敷へと……」

「何故…そんなことを…」

「私は…あの妖怪…「銀剛(ぎんごう)」に脅されていて…妖怪退治屋である美子さんを始末するから連れて来いと脅されて…」

やはり…あの妖怪に咲寺さんは利用されて…

「最後に一つ言わせて下さい…この屋敷を…どうか救って…あなたを騙してごめん…なさい…」

「咲寺さん…?咲寺さん!!」

すかさず胸に耳を当てた…だがもう息は無い…それは今しがた咲寺さんの生命が停止したという合図だったのだ…

「そんな…何で…咲寺さんは何も悪くないのに……何で…こんなこと…」

その瞬間に奴への怒りが真っ直ぐに込み上げて来た。物も言わず、私は屋敷の外へと出ていった。


ー屋敷の外ー


「ほれほれ、動きが鈍くなっておるぞ?」

シュババババ!!

「くっ…流石に再生が追い付かないか…」

スタッ…

「そこまでだ、銀剛。」

「ほう…小娘、わざわざあちきに殺されに来たか。」

「いや…」

ゆっくりと銀剛の前へと進んでいく。この土を重く踏みしめながら…

「美子、受け取れ!!」

カチャン。

上から酒殿さんが投げた二本の刀を受け取り、玲子ちゃんと人格を交代させる。

「玲子ちゃん。」

『えぇ。』

フッ…

「もうあなたに慈悲は与えない…」

チャキッ…



「これより先は全力を持ってあなたを斬る。」



「そうかえ…斬れるものなら斬るがいい!」

カチャン、シュバッ!!

「一刃!!」

ヒュッ…

「おぉ、速い。実に速い技…」

カチャ…

「二刃!!」

「ぬお…!?」

一刃も二刃もギリギリでかわされるか…

「やるぞ!酒殿!」

「分かった!兄者!」

ヒュオッ!!

「全く…ちょこまか目障りな双子じゃな…」

二人の攻撃を避けながら銀剛は何かをしようとしている。

「流石に三対一はあちきもキツいのぉ…」

サラッ…

「銀式・生部増援!!」

シュルルル…

「こいつ…まさか!?」

「………あーあっ…」

「ふわぁ~…」

「おはよう、二人とも。」

この妖怪…ただの地面の土から新たな妖怪を生成した!?しかもたった少量の土で…!?

「目が覚めたぜ…姉貴。」

「お姉ちゃんおはよー…」

彼らは銀剛のことを姉と呼んでいる。良く見ると顔は全員銀剛と同じ顔だ。

「さて…名前はどうしようか。そうじゃな…弟、お前は「土吽(どぐ)」。妹、お前は「土陀(どだ)」じゃ。」

「ありがとよ、姉貴。」

「やったー!お姉ちゃんに名前つけてもらったー!」

名前をつけているのだろうが…恐らく奴には情の欠片もない。きっと都合の良い道具としか感じてないに決まってる。

「では土吽、あちきを犯人と呼んだ男の妖怪を殺しておいで。」

「了解だぜ…!!」

ヒュッ…

「なっ…速い…ッ!?」

バゴッ!!

「酒王さん!」

この土吽という妖怪…術などは持っていないが、酒王さんと酒殿さんのように筋力が高い系統の妖怪か!

シュル…バチンッ!

「俺のことは気にするな!お前は酒殿と一緒に戦え!」

「分かりました!」

「土陀、お前の力を見せておやり。」

「お姉ちゃんに良いところ見せるよ!」

サササッ……

「筆術・狛犬!」

『ガルァ!!』

「筆で描いた物を具現化させて…!?」

この筆に特殊な力は宿っていない。恐らく宙に描いた物で攻撃する能力は土陀自身の能力か…!

「あれー?効いてないよ?」

「隙ありっ!!」

ドスッ!!

「痛いよぉ…何で私のこと殴るの…ひぐっ…」

「あらあら、今のは痛かったのう…後でお姉ちゃんが見てあげるからねぇー…」

幼さがある土陀と姉のフリをする銀剛。見るからに最悪の組み合わせだな…

「はぁぁぁ…」

ヒュオオオ…

「はぁっ!!」

「うわ…寒っ…」

これ以上の被害は出さない為にも、早く決着をつけなければ…雪女の力を使って一気に勝負を着ける!!

「お前…人間かえ?」

「さぁ?どうかしらね。」

カチャン、

「氷刀……」

ガキィンガキィンガキィン!!

「雪花氷棆。」

カチン。

この絶対零度の刀で斬られれば重傷は免れない…まずは妹からだ。

「お姉ちゃん寒いし痛いよ!!助けてお姉ちゃん!!」

「…………」

「お姉ちゃん…!?」

スッ…グシャッ!!

「雑魚め。所詮はあちきに構うだけの屑だったか。」

物も言わずに土陀の頭を砕いた…やはり奴に仲間意識など皆無に等しいか。

「ぐあ…あ…」

パサァー…

「よし、こっちも片付いた。土吽は倒したぞ!」

「流石だね兄者!」

酒王さんの方も片付いたみたい。あとは銀剛だけ…!

「どいつもこいつも雑魚ばっかりじゃのう。まぁ、正直関係ないが。」

「あなたが仲間意識なんて早々に無いことは最初から分かっていることよ。」

「それが何だと言う?今すぐにその口を無くしてやろうかえ?」

「やれるもんならやってみなさい!!」

ガキィン!!

銀剛は腕を刀のように変化させて襲いかかる。その速さも並の妖怪なら一瞬でやられるだろう。

「そこだぁ!!」

ヒュイン…

「鋼術・鉄糸。」

ジャイン!ジャイン!

「やばっ…やっちまった…」

「酒殿さん!」

細い鉄の糸に酒殿さんが体をバラバラにされてしまった…再生妖怪だから死ぬことはないが、再生にはかなり時間がかかるだろう。

「あたしに構わず戦え!あたしはこの離れた体をどうにかする!」

シュオッ…

「氷爆葬!!」

シュイン…ガキィン!!

「おっと危ない。」

この氷爆葬を避けられるか…やはりこの妖怪は相当な手練れであることは間違いないみたいだ。

「それにしても、何故お前から冷気が溢れておる?お前は本当に人間なんかえ?」

「今は人間だけど、昔は雪女だったみたい。だからこの力が使えるのよ。」

「そうか…では殺した後にその美しい顔だけ持っていこうか…!」

「大分ふざけた理屈ね。」

バッ!!

銀剛がこちらに向かって瞬間的に迫る。私は身動き一つすらしない。そう…私の狙いはこれだ。

「さっさと死ねッ!!」

「蝶月輪…」

フシュウ……

「無刃。」

溜めた冷気を一気に放出し、霜を周囲に発生させる。目眩ましの目的もあるが、本当の目的はこれにある。

「なんじゃ…?体の表面が霜焼けて…」

「無刃はその名の通り、刀を使わない技。この状態でのみ出せる特殊な技よ。」

カチャン、バシュッ!!

「今だっ!!」

ギャリィンッ!!!

「えっ…?」

あまりの一瞬の出来事だった。なんと蝶月輪が折れてしまった…!!長年使ってきた私と美子の愛刀が…!!

「はははッ!!目眩ましで隙をついて斬れるとでも思ったか!!あちきの体は鉄に変化出来ることを忘れたか!?」

「くっ…!」

「お前はもう戦えない。従ってあちきを倒すことは出来ない…さようならじゃ!!!」

ササッ…ブシュッ!!

「かはっ…!」

「玲子ーーーーッ!!!」

口から血が…意識が朦朧とする……腹を刺されたのか…?

「所詮はお前も雑魚じゃ。その愚かな姿を晒しながら死ねばいい…」

ここで終わりたくない…まだ私は……



『玲子…』

「兄様…!?」

見上げると、目の前には兄様が立っていた…これは幻覚…?いや違う、これは兄様が私に好機をもたらしてくれているんだ…

『僕の刀を使うんだ。お前はまだ諦めちゃいけない。』

「また兄様の力を借りても良いの…?」

『僕はいつだって力を貸すよ。さぁ、立って…一緒にあの妖怪を倒そう。』

「ありがとう…兄様…!」



ムクッ…

「なに?まだ死んでおらんかったのか?」

「勝手に…決めつけるな…!それに…私はまだ…戦える!」

「刀が折れたのにまだ立ち向かうと?」

「私にはもう一本刀がある…!!」

カチャ…

行くわ、兄様…私に力を貸して!!



『「この刀で、お前を焼き斬るッ!!」』



ドンッ!!

「(なんじゃ…今、「誰か」見えた…男か…?)」

確か…兄様が生きていた時に兄様が練習していた技があったはず……


ー数年前ー


チャキン!!

「うーん、難しいな…」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「美子と玲子みたいに居合い斬りが出来たら技の可能性が広がると思ったんだけど、この刀と相性が悪いみたいなんだ。」

「でもお兄ちゃんは今の剣技のままで良いんじゃないかな?」

「そうだよね…でもいつか技を成功させられるようになりたいな…なんてね。」



でも兄様は技を成功させられないまま亡くなってしまった…だから私が成功させなくちゃ…

「今度こそ息の根を完全に止めてやるわい!!」

奴が同じようにこちらに向かって来る。恐れるな、息を整えて深呼吸をしろ…

「はぁー…」

「ついに死を悟ったか!!ならすぐに刺してやろう!!」

シュインッ!!

「居合い…」

チャキッ、



『「猛華…爆斬!!!!」』



ボシュウ…カチン。

鞘から勢いよく抜刀された刀は一瞬で炎の斬撃を発生させ、文字通り銀剛の鉄の体を焼き斬った。

「仇は…取りました…咲寺…さん……」

この一撃で私は完全に力尽き、気付けば私の視界は真っ暗だった…

続く。

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