第3件 真犯人

真犯人を今すぐ探せと言われても、どうしたらいいのか分からない…妖気は微かに感じはするけど、どこにいるのかは全く見当がつかない…

ストッ、

「おはようございます、美子さん。」

「あっ、おはようございます。咲寺さん。」

部屋の戸を開けて咲寺さんが入って来た。

「事件の方はどうでしょうか?」

「それが、中々足取りが掴めていないんですよ。咲寺さんは何か誰かから聞いたりとかしませんでしたか?」

「いえ…私も特に…」

『……?』

「そうですか…ではまた何か情報を得たら教えて下さい。」

「はい…」

そう言うと、咲寺さんは静かに戸を閉めた…

『何か様子がおかしいわね…』

「え?何が?」

『いや、気のせいであってはほしいんだけど…咲寺さん、何かを隠してそうだったから…』

「そんなはずないよ!だって咲寺さんは私達に助けを求めた依頼人だよ?」

絶対にそんなはずない…優しい咲寺さんがそんなこと…

『これはあくまで私の憶測だけど…』



『そもそも「屋敷(ここ)」に招かれたこと自体が何かしらの計画だとしたら…?』



「えっ……」

その瞬間に私の中で何かがプツンと切れた。思わず冷や汗が出そうになる…

『昨日の夜に酒王さんが言ってた「奴の計画通り」という言葉…現にこの屋敷の花魁が疑いをかけられていることが犯人の計画通りなら、わざわざ遠くへ逃げるようなことをしなくても良いはず…私達を招いたのは恐らくだけど…邪魔な私達を「始末」するため…』

まさか…いずれ自分の邪魔になる妖怪退治屋の存在を知って私達を始末するために…!?でたらめだと言いたいところだけど、玲子ちゃんの言っていることは何となく筋が通っているような気がした……

『悪いけど、今は咲寺さんが何かを握っているとしか考えられない。慎重に行きましょう。』

「うん……」


ー夕方ー


「美子ちゃん、今日は早く上がっていいよ。」

「えっ…そっちの方は大丈夫なんですか?」

「今日は客人が少ないからねぇ。きっと事件のことでみんな来ないんだろうねぇ…だから巻き込まれる前に早く上がって大丈夫だよ。」

「お婆さん…」

このお婆さんに何かを隠すのは気が重い…ここで私の目的を打ち明けてしまおうか…

「実のところ、私はその事件を解決するために雑用係として潜入しているんです。」

「それは本当なのかい?」

「本当です。私の本当の職業は妖怪退治屋と呼ばれる妖怪を専門に扱った職業なんです…」

「そりゃ凄い仕事を持ったもんだねぇ…こんなに可愛いくて若い子が妖怪専門の仕事をしているなんて、世の中不思議なこともあるもんだよ。」

「今回のこの事件は妖怪が犯人である可能性が高いんです。多くの犠牲を出さないためにも私は犯人を見つけなければならないのですが…」

「なら、尚更早く上がりなさいな。後の仕事は私達雑用係の仕事だからね。美子ちゃんは自分のやるべき事をやりなさい…」

「本当に…良いんでしょうか…?」

「細かいことは気にしない!さぁ、早く行っておいで。」

「ありがとうございます…お婆さん!」

この機会を絶対に無駄にするもんか…お婆さんがくれたこの機会は絶対に…!!




「機会…あちきにはまだ「小娘」を始末する機会は来ないのかえ?」

「も、申し訳ございません……」

「これ以上あちきも待ってはおられんからのう、「計画」が許される時間は無限ではないのだぞ?」

「次こそは必ずや…次こそは…」

ストッ、

「あっ!咲寺さん、ここにいたんですね!」

「美子さん?どうかされたのですか?」

「今日は客人が少ないということなので、仕事から早く上がれたんですよ。……そちらの方は?」

私は隣にいた遊女を見た。初めて会う方だから、しっかりと挨拶はしなくちゃ。

「あちきは咲寺の友人ですよ。咲寺とは長くこの屋敷で勤めてさせてもらってましてねぇ…」

「そうなんですか!私は凛条美子で…」

「騙されるな!!美子!!」

物凄い勢いで戸を開けて、酒王さんが中に割って入って来た…

「酒王さん…!?」



「こいつが…こいつが事件の「真犯人」だ!!」



「この人が事件の犯人…!?」

この人とは数秒前に出会ったばっかりで何も分かっていないのに…いきなり犯人だなんて…

「あら、人聞きの悪いことを申し上げるのですね。」

「お前が妖怪であることを一発で決める「証拠」がある。これだ。」

そう言うと、酒王さんは懐から鉄製の針のような物を取り出した。

「遺体があった場所を独自に調べた…そしたらこの針が出てきてな。」

「だからその針が何の証拠ですと?」

待って…確か咲寺さんから依頼を聞いた時にこんなこと言われたような気がする…

『遺体には不自然な刺し傷などが無数にあって、とても人が出来るような殺害方法じゃないんです。』

「私からも一つ言わせて下さい。先日、咲寺さんからこの事件についての依頼を聞いた時に、「遺体には不自然な刺し傷などがあって、とても人が出来るような殺害方法じゃない」と聞いたんです。」

「だとすれば…こいつは「凶器」だな。」

「だから…それが何の証拠に…!?」



「この針、お前の落とし物だろ?」



「……!?」

「こいつをお前の体に押せば恐らくだが、「一体化」をするはずだ。お前は体から自在に鉄製の凶器を量産出来る妖怪なのだからな。」

「なっ……」

反応を示した…!やはりこの人が…!?

ヒュッ…グササササッ!!

「ガフッ…!!」

「咲寺さん!!」

何かを腕から飛ばされて咲寺さんの体に痛々しい傷をつけた…



「あ~憎たらしい!!何故あちきの思い通りに行かないのかえ!?」



「ついに本性を現したか。外道め。」

「もう許すものか…あちきの邪魔になるものは全て…潰す!!」

続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る