第2件 屋敷での労働

「次はあそこの部屋の掃除、それが終わったら厨房付近をお願いね。」

「は、はい!」

予想はしていたが、雑用係はかなり忙しい。初日は客人が店を出た後の部屋の掃除や後片付けをやった…妖怪退治屋の仕事よりも遥かにキツいや…


ーその夜ー


今何時くらいだろう?凄いくらいに肉体労働して筋肉痛になりそう…

「美子さん、今日はお疲れ様です。」

「咲寺さん!」

「疲れていますのね?疲れには甘いものを口にすると良いですよ。」

そう言うと、咲寺さんは四角い飴のようなものを一粒くれた。

「ミルクキャラメルですよ。甘くて美味しいんです!」

「でもこんな※高価なもの…受け取れませんよ。」



※ミルクキャラメルは当時価格0.5銭(一粒の価格)であり、現在でいうと500円相当の価格だった。(森永ミルクキャラメル公式サイト参照)



「大丈夫です、これは遊女屋敷の皆に疲労回復を目的に配られているので安心してください。」

「そうなんですか?じゃあ、ありがたく頂きますね。」

小包からキャラメルを取り出して口に入れると、ほのかな優しい甘味が口の中で広がる。

「これも初めて食べたものだけど…美味しいね!」

『えぇ、これほど甘いものは口にしたこと無いわ。昔食べたシベリア以来かしら?』

これは一粒で活力になる…!明日も頑張れそう!


ー翌日ー


「それじゃ美子ちゃん、今日もよろしくお願いね。」

「はい!」

長年雑用係をしているというお婆さんが私に指示を出してくれた。

「この屋敷は私が小さい頃からあってねぇ。そこら辺の屋敷よりも古いやつなんだよ。」

「へぇ~…道理で年季の入った感じがしていると思ってたんですよ。」

「今や雑用係なんて仕事をする人なんか私みたいなおばさんか10歳くらいの若すぎる子達ばっかだよ。まぁ、子供達の成長が見れるってことも悪くはないさ…」

客人が食べ終わった後の食器を洗いながらお婆さんは話を続けた。

「美子ちゃん、あんた「訳あり」なんだろ?」

「えっ!?」

「私にだって分かるさ。近頃ここらで起きてる事件が公になったところで美子ちゃんみたいな若い子が入ってきたんだからねぇ。一体どんな事があって屋敷(ここに)来たんだい?」

言うか、伏せるか…あまり多くの人を事件に巻き込みたくはない。危険に晒すことはしたくない…

「それは…言えません…」

「言いたくなかったらそれでいいさ。でも何かあったら私になり誰でもいいから相談しなよ。」

お婆さんは優しかった。今は周辺で殺人事件が起きているというのに私や小さい子供達の心配をしてくれている…なんとありがたいことか…

「客人です!料理を運んで下さい!」

「ほれ、お呼びだよ。行っておいで。」

「分かりました!」

茶碗に盛られた白飯や汁物を御膳の上に乗せていく。一体どんな客人なのだろう?

「客人一人、入ります!」

ストッ…

戸を開けて入って来たのは酒王さんだった。

「酒王さん!」

「こら!客人の前だよ!」

「す、すみません…」

しばらくして私は部屋から追い出された。そりゃ雑用係の人が部屋に残れる訳ないよなぁ…

「良い体格をしてますのね?惚れ惚れしちゃいますわ~♪」

「……そうか。」

酒王さん、何か困惑してる…?とりあえず今日の仕事が終わるまで待とう…


ーその夜ー


「今、終わりました。」

「あぁ…ご苦労だった。」

「…?どうかしたんですか?」

「実はな、お前が追い出された後に腕とかをベタベタ触られてな…しかも部屋には女しかいないから中々言い出しづらくてな…」

想像しただけで散々なことだったのは間違いないみたい…

「こう見えて兄者は女への耐性があんまり無いからね。もうほんと昔っからよ。」

「と、とりあえずここまでの情報整理しましょう!」

「俺はさっき言った通り、散々な状況で何一つ聞けなかった。あと、俺が感じた限りでは妖気はかなりでかい…周辺に潜んでいるのは間違いないみたいだが…」

「あたしが聞いた情報だと事件が起きた日からここの屋敷の※花魁が犯人だと疑われているらしい。そのせいで花魁は人前にあまり出ることが無くなったと聞いたな。」


※花魁(おいらん)…遊女の最高位に立つ女性のことを指す。


「花魁が?それはマズイな…早く元締めの奴を倒さなくては…」

「どういうことなんですか?」

「要するに事件の犯人はこの屋敷の花魁に罪を擦り付けて他の場所で同じことを繰り返す気だぞ。」

まさか!?そんなことが起きたらもっと多くの人々が…!

「こうやって今疑いがかけられているのは奴の計画通りなんだろう。急いで犯人を探し出さなければ…」





「お前さんの憧れである花魁が人々に疑いをかけられておるぞ?のう…咲寺千夜。」

「…………」

続く。

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