第1件 見えぬ恐怖

依頼が来たのはつい数日前の出来事だ。依頼主は遊女屋敷で働く女性だった。

「すみません、妖怪退治屋というのはここで合っていますか?」

「はい!どんなご用件でしょうか?」

見ると、この女性は少し派手めな和装をしていた…一体どこで働いている人なんだろうかと最初に私は思った。

「私は遊女屋敷で働く者です。ここ最近、その遊女屋敷やその周辺で連続殺人事件が起きていまして…」

「連続殺人事件…!?」

「はい…しかも遺体には不自然な刺し傷などが無数にあって、とても人が出来るような殺害方法じゃないんです。だから屋敷の皆は怯えてて…」

「なるほど…それで私のところに来たということなのですね…」

妖怪退治屋を営む身として、見過ごす訳にはいかない…!現に人が殺害されている状況は私達が止めなくては…!

「どうかお願いします!遊女屋敷を救って下さい!」

「分かりました。承諾しましょう!では後日、そちらの屋敷へと一時的に働く身で潜入します。」

「ありがとうございます!その時は私がご案内しますね!」

今回の依頼は私と玲子ちゃんだけじゃ荷が重いのは事実…酒王さんと酒殿さんに相談しよう。


ー翌日ー


「遊女屋敷に働く身で潜入するのか?」

「はい…今回の依頼は「連続殺人事件」なので、流石に私と玲子ちゃんでは荷が重いかと…」

「この子が困っているんだから協力しようじゃん、なぁ兄者?」

「それはそのつもりだが、俺はどうすれば良い?お前達は女だから何かしらで働けるが…」

あ、確かに酒王さんは男だから…

「なぁに、客人として入れば良いことじゃん。中に入ったらどうにかしてあたし達も同じ部屋に入れば良いんだし。」

「まぁ…それはそうだな…」

どうにかして作戦は決まったみたい!後は屋敷への潜入に向けて準備をするだけ…!


ー潜入の日ー


「ここが遊女屋敷…?」

屋敷というだけあって他の建物よりも大きい…周辺には同じような屋敷の建物が転々と並んでいた。

ガラガラ…

「あら、いらっしゃい。」

戸を開けると依頼主が待っていたみたいだ。

「あっ、短期間の間ここで働かせていただく凛条美子です!あとこちらの方は酒殿さんです。」

「美子さんと酒殿さん。今日からよろしくお願いしますね。」

「はい!」


ー空き部屋ー


「しばらくはここでの生活となります。」

「部屋をしばらく借りても大丈夫なんですか?」

「元々ここは空き部屋なので借りても大丈夫です。」

こんなに広いなら空き部屋とか出来ちゃうものなのかな…?

「念の為、私がお化粧をしますね。」

あ、ここは遊女屋敷だから雑用係でもお化粧はするのか。

「あら、かなり美人なお顔ですね…」

「いえいえ、そんなこと無いですよ。」

「でも本当に…むしろそこまでお化粧しない方が良いくらいに。」

そう言われると何か照れる…

「じゃあ可愛い顔の面影が無くならない程度に口紅とかで軽くやっちゃいますね。」

「分かりました…」


ー数十分後ー


「はい、お化粧完了です。」

鏡で自分の顔を見ると、そこにはいつも見慣れている顔とはまるで別人のように変わった自分がいた。

「凄い…これが私…?」

「お化粧したのは初めてなのですか?」

「そうなんです。だからいつもと違う自分の顔に少し驚いてしまって…」

何より口紅を塗ったのは人生で初めてだったから、ちょっと大人になった気分…!

「後の事は私からお伝えします。あ、申し遅れましたが…私の名は「咲寺千夜(さきじちよ)」と申します。」

「分かりました、咲寺さん。」

パタン。

戸を閉める音がした途端、私は玲子ちゃんに話しかけた。

「未だに自分が信じられない…お化粧した顔だなんて…」

『美子、あなたってそんなにお洒落に興味とかあったの?』

「興味というか、女の子なら人生で一度はやってみたくない?はぁ~…これお兄ちゃんに見せたらどうなんだろう…?」

『美子のこんな姿は初めて見たわ…』

続く。

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