爺ゲームに興味を示す
「しかし、さっきからその薄っぺらい箱の中でシェリーテのような娘っこが踊っておるが、何なんじゃ?」
爺は缶コーヒーをすすりながら、不思議そうにゲーム画面を指さす。そういやエルフ娘のキャラ作成の途中だったな。シェリーテちゃんが現れてすっかり忘れていた。
ちなみに面倒なやり取りを無くすため、缶の飲み口は僕が開けてから手渡したのだが、シェリーテちゃんはその様子を興味津々というように眺めていた。
「それはゲームだ……」
「げぇむじゃと? ヨシアキは透明な板の中に、フェアリーのような小さな娘を捕えて遊びで飼っておるのか? 精霊や妖精ような生き物を奴隷にするのはいかんぞ?」
爺は犯罪者でも見るような疑いの眼差しを僕に向ける。やめろ、シェリーテちゃんまで同じような視線を僕に向けて来るじゃないか。そこは師匠を見習うところじゃないぞ。そもそも君の師匠はただのボケ爺だろ?
いやそんな事よりも、師弟揃ってテレビ画面を見たことが無いのか。全く、どこの国から来たんだよ……。
「違う違う、それは実体の有るものじゃない。作り出された映像だ!」
「あん? どういう仕組みで出来ておるんじゃ? 幻術か? それとも遠目の魔法か、記憶再生の魔法でも使っておるのか?」
「科学の力だよ、か・が・く! 擬似的に作ったこういうキャラクターを擬似的な空間の中で動かして遊ぶんだ」
一瞬、爺が物凄く不思議そうな顔をした。
「科学ってあれじゃろ、魔法を使わずにどうやって火をつけるかとか、金属に雷魔法が通るのはどういう仕組みかとか、物が下に落ちるのは何故かとか考えるあれじゃろ? なんでそれが魔法で作るような異空間を作り出せるんじゃ?」
うん、説明するのも面倒くさい。激しくスルーしたいぞ……。というかこのボケ爺に説明して理解できるとは思えない。
僕は大きくため息をついた。
ふと気づくと、シェリーテちゃんがジュースを片手に画面を覗き込み、まじまじと画面内で動くエルフ娘を見詰めている。
「……擬似で作り出すということは、ヨシアキさんはこういう娘がご趣味なのですか?」
「……んあ……」
間違っちゃいないんだが、何だか若い可愛い娘に僕の性癖を暴かれているようで、少し気恥ずかしいような、むず痒いような微妙な気分になる。とはいえ、声に出して違うとも言えずに言葉を選んでいると……。
「ワシはもっとバインバインでキュッとしてる方がええのう。昔一緒のパーティに居た神官職のエリエットちゃんなんか最高に……」
鼻の下を伸ばした爺が下品な身振り手振りを交えながら何やら語り始めたが、弟子の冷たい視線に気付いて慌てて言葉を止めた。爺の趣味はともかく、外人の女性って凄いスタイルの人いるもんな……。
僕的にはシェリーテちゃんくらいの慎ましやかな方が……。いやいや、邪な視線を送ると変な石を投げつけられてしまう可能性もあるので止めておこう。
しかし神官職っていうと聖職者だろうけど、そんな人と一緒に参加するパーティって何だろうか。婚活パーティか何かか?
「ししょーってば、サイテー……。……って! エリエットさんって、もしかしてあの高名なエリエット・ヴァイツァー総大司教ですか?」
「……そうじゃが?」
さも当然という風にうなずいたあと、爺はドヤ顔でコーヒーを口に含んだ。
「えええええええええっ! あんな偉大な素晴らしい方とご一緒した事があるんですか! ししょーって実は本当に凄い人だったんですね」
「ブッ……!」
爺がコーヒーを吹いた。あんたの服はどうでもいいが、あとで床拭けよ。
シェリーテちゃんの頭の中では「エリエット総大司教>師匠(爺)」なのか。それ程凄い人だとは思われてなかったんだな。残念だったな、爺。
まあ、僕にも爺がそんなご大層な人にも見えないが。
「エ……エリエットちゃんより、ワシの方が……名声も地位も世界的には上なんじゃよ? ホントじゃよ?」
「へー」
動揺する爺に、冷たい返答をしてみる。以前、爺の妄想英雄譚を聞いているが、特に信じている訳でもないしな。
「へぇー」
シェリーテちゃんも大して変わらない反応。爺、弟子に敬われてないな。
「え……、巷じゃワシを主人公にした物語とか大人気じゃろ? 歌劇とかでもワシを題材に……」
「知りません」
真顔で答えるシェリーテちゃん。そして凹みまくる爺。
爺の誇大妄想なのか、知ってて食い物の恨みで知らない振りをしているのかは分からない。無論、俺も爺の名前のグランプリ・ドランカー(?)だったかいう主人公が出て来る物語なんぞ知らないし。
フォローなんかしてやらんぞ。
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