ダメだしされる爺

「ハァ……ハァ……。これ、一日に何度も使う魔法じゃないから……」

 明らかに疲労した様子で、爺が再び現れた。

「おう、おつかれ」

 僕は、お愛想程度に挨拶をする。

 正直爺が再び現れるまで、シェリーテさんの愚痴をずーっと聞いていた。ほぼ「爺がいかにアホであるか」を語っていた訳だが、そんなら弟子を辞めればいいじゃないかと、思ったが口にはできなかった。

「シェリーテ、さっさと戻ってこないと、コレムまでこっちに来てしまう」

 爺が困ったように言うが、シェリーテさんは聞く耳を持たない。

 不機嫌そうに鞄の中に手を突っ込んでおり、帰還石を投げる準備をしているのかもしれない。……と、思った次の瞬間には既に投げるモーションに入っていた。

 気付いた爺は即座に、土下座モードにチェンジする。

「スマンかったーーーーーーーーー!」

 師匠としての威厳もクソもない状態に、第三者の僕はただ笑うしかなかった。

「……爺、とりあえずサンダル脱げ……」


 少し落ち着いたところで、僕が話を切り出す。

「要は、爺が大事なお菓子を勝手に食った事が原因らしいぞ」

「え? あれ、そんなに大事なものだったんかい?」

「王都まで行って、行列に二刻程並んで買ったやつで、お休みの日に美味しいお茶を飲みならが食べるのを楽しみにしてたんです!」

 シェリーテさんは、半泣きになりつつ怒りをぶちまける。

「そりゃあ、爺が悪いわ」

 どちらの肩を持つか、悩むまでもない。王都とか言われても良く分からないが、これだけ可愛い子なら、それが正義だ。

 爺は僅かに思案する素振りを見せた後、ポンと軽く手を叩いた。

「どうじゃ、ワシが魔法で再現するというのは」

「ダメです。ししょーのは見た目だけで、味まで再現できた試しが有りません」

 なかなか痛烈なカウンターだな。得意分野をダメ出しされるってのは、自称大魔法使いにとっては厳しいものだろう。

「仕方が無いから、爺がその店で買ってくるしかないな」

「なぬ?」

「そのお店は、若い女の子並んでないんですよ」

「なんと!」

 慌てふためく爺。

 僕は思わず、若い娘達が並ぶ中、一人だけ混じる老人の姿を想像して笑ってしまった。

「まあ、いいや。とりあえず、我が家にある菓子でも食べてくれ」

 丁度、両親が旅行に出かけていて、家の中は僕一人なのだから、二人が家の中を歩き回ったところで困ることはない。二人を居間に案内すると、僕は先ほどとは異なるジュースと、缶コーヒーをふたつ。そして、適当に菓子を見繕って持ってきた。

 家の中をキョロキョロと見回す二人。爺だけのときは間違いなく怪しい外国人と思っていたが、このエルフの美少女が居ると、どうも分からない。

 あの娘の耳は本物っぽいと思っているが、もしかしたら特殊メイクをしたコスプレ少女かもしれない。変態と思われない程度にじっくり様子を観察してみよう。


「時に、爺はまたワシってツエーしに来たのか?」

「いやー、この世界は魔法使えんみたいだしのう……」

「そもそも爺は本当に魔法使えるのか?」

 僕は疑いの眼差しを向ける。それに合せるように、シェリーテさんはニヤリと笑った。

「使えるんでしょうか? 案外、魔法付与道具を使用して嘘をついているだけかもしれませんね」

 まだ怒っているのだろう、非常にトゲのある言葉だった。弟子にそう言われると、爺はとてつもなく情けない顔をした。威厳も何もあったものではない。

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