弟子の方が数枚上手
何が「久しぶりだの」だ。早々に僕のラブコメ展開ぶち壊しやがって。
こんな美少女とゆっくり話す機会なんかそうは無いってのに……。
「爺……何だ、その格好?」
プリントシャツの上に赤地のアロハシャツ、七分ズボンにサングラスと、サンダル。魔法使いの「ま」の字も無い、若者かぶれした老人のような格好に、ただただ呆れた。
「これは前回来た時にすれ違った男の服装を、記憶から読み出して魔法で構築したものだ。似合うだろ?」
「似合うと思ってたのか?」
「えー、ワシのお気に入りなんだが」
いっぺん死んで来い。センスゼロのアホ爺が。
さっきまでお怒りだった弟子のシェリーテさんは、師匠の登場に何を思うのだろうかと見やると、彼女は怒り顔で何やら自分の鞄の中を漁っていた。
何をするつもりかと思って見ていると、彼女はすぐに鞄から何かを取り出した。と、次の瞬間だった。
「えい!」
シェリーテさんは爺に石のような何かを投げつけた。
「あいたっ!」
それは見事に爺の額に命中したあと、床に転がる。と、一瞬で光る魔法陣のようなものが爺を中心に床に現れる。僕はそれには見覚えがあった。
「あ……」
爺が一声発した瞬間、魔法陣が大きく輝き、眩しさに僕は目を閉じた。
数秒後、再び僕が目を開けた時、爺も魔法陣も消えていた。
「ふん!」
何やらシェリーテさんはご立腹のようで……。
そりゃあ半家出状態のはずが、すぐに迎えに来られたらたまったものではないのだろう。強制送還したと思えばいいのか? 思わず笑ってしまったが、どういう手品……とか、もうそんな次元ではないな。
「帰還石とかいうの使ったの?」
「大丈夫です。スペアは幾つか持ってきてますから」
えっへんと胸を張るシェリーテさん。そういう問題では無いんだが……。まあ、帰るつもりはあるんだな。
「一応、あの人は師匠なんでしょ?」
「はい、一応」
「大丈夫なの?」
「何がですか?」
けろっとして言うので、僕も流されて「まあいいや爺だし」という気になる。
「また来るんじゃない?」
「反省せずに来たら、また強制送還します!」
キッパリと言い切った。ツッコミどころも見つからす、僕は空笑いするしかなかった。……ともあれ、ラブコメ展開復活ですか?
「で、その鞄には他に何が入っているんですか?」
「護身用の
「ほほー」
いや、かなり今、ヤバめの名前のもの入ってたよね。いや、手品の領域ならいいけどさ。本物エルフちゃんだったら、魔法も本物だよな。さらっと「デス」って言った気がしたけど、気のせいだよな。護身用だよな? 下手な気を起こすと僕もその餌食ですかね?
「なに? 『私ってツエー』しに来たわけじゃないですよね?」
「ししょーじゃあるまいし、そんなアホな事考えませんよ」
「爺の事、アホだと思っているの?」
「魔法は凄いですけど、基本はアホです」
きっぱりと言い切りましたな、この娘。うん、まあ確かに爺はアホだと思う。アレで大魔法使いとか自称されても信じられんもんな。
シェリーテさんは残っていたジュースを一気に飲み干し、満足げに笑顔を浮かべる。
再び床に魔法陣が現れたのは、それから30分程後の事だった。
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