争奪戦

 存在を否定されたかのように凹んでいる爺を無視して、目の前の菓子を指さすシェリーテちゃん。

「ヨシアキさん、このお菓子……頂いてもいいのですか?」

 さっきからチラチラ見てたのは知ってたけど、食べるタイミングを見計らっていた訳ね。

「どうぞ」

 シェリーテちゃんは許可を得ると、目を輝かせながら透明の袋に入ったクッキーを摘み上げ、それをまじまじと観察する。何だか、どストライクの美少女にそんな反応をされると、思わず見入ってしまいそうになる。

 彼女は恐る恐る個別包装のビニールを破くと、少し戸惑いつつもクッキーを口の中へと放り込んだ。


「…………ん! んんーーーーーーっ!」

 噛み砕く音が聞こえた直後、シェリーテちゃんは満面の笑みを浮かべながら歓喜の声を上げる。そして迷わず次のクッキーへと手を伸ばし、僕の顔を見た。

「どうぞ。……ああ、今食べたのがチョコ入り。それはドライフルーツ入りのクッキー、んでこれがプレーン、これがナッツ」

「ちょこ? っていうのよく分からないけど、これ物凄く美味しい! 王都のお菓子よりもずっとずっと……!」

 興奮気味に弾ける笑顔で詰め寄るシェリーテちゃんは、まさに天使! 可愛い、尊い、そんな言葉じゃ言い表せない程の……と身悶えしていると。

「ヨシアキ、ワシも食べていいかの?」

「……あん?」

 僕の至福のラブコメ時間、ぶち壊しやがって!

 血管が切れそうになりながら、誰が爺なんかに食わせるものかと冷たい視線を投げかけた直後だった。

「ししょーは駄目です!」

 シェリーテちゃんはそう言って拒絶すると、菓子の乗った皿ごと奪い取って自分の膝の上に乗せた。

「な……! よこすのじゃ!」

「嫌です!」

 自分が苦労して手に入れたお菓子を、黙って勝手に食べてしまうような相手に情けなど与えるはずも無いよな。ぷんすこ怒っているが、その顔がこれまた可愛い。見てるだけで癒されるわぁ。

 そんな美少女の弟子に可愛く拒絶されても、爺は引き下がる様子を見せない。食い意地が張っていて、実に大人げない。

「ぬぬっ、仕方ない……! モジョルカーナ・クッサイワーナ……風の力よ、獲物をわが手にっ! 物体浮遊っ!」


 ……。


 当然、何も起きない。

 口を半開きにして「しまったぁ!」って顔している時点で、爺が何か悪さしようとしてた事は分かる。

「……むむっ!」

「くそ爺っ! 『むむっ』じゃなくて今、何をしようとした?」

「……ふんっ……何もしとらんわいっ」

 しらばっくれる爺。結果的には何も起きていないんだが、やろうとしたことが何なのかが問題だ。

「ししょーは今、絶対この皿のお菓子を奪おうとしましたよ」

 チクるシェリーテちゃん。

「いや、そんな事は考えておらんぞ!」

 目を泳がせながら無駄にキリリ顔するな。聖人君子でもない爺がそんな顔をしても無駄だ。


「何となく分かってたけど、自称大魔法使いがそんなショボイ事考えるなよ……。弟子のお菓子を奪おうなんて、最低だぞ。どうせなら爺の物語とやらの続編でも書いてもらうか……大魔法使いを自称する男は、食い意地の張った嘘つきだったと……」

「あ、いや待て、それはいかん! 全国のお子様の夢と希望とワシの尊厳が壊される!」

 もしこんな爺に夢とか憧れを抱く子供が居るとしたら、それこそ粉々に打ち砕いてやった方がいいんじゃないだろうか。


「……そんな甘い幻想なんか、実物見たらすぐに壊れますけどね……」

 ぼそりとつぶやくように、実感のこもった辛辣な言葉が聞こえてきた。手厳しいなシェリーテちゃん。

 というか、ボケ爺扱いしている僕が言うのも何だけど、もしかして弟子から見ても私生活そんなに駄目なの、この人?


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