第6話ラッター
房に入ると柵に囲われた二つの部屋に二匹の動物がいた。
灰色の毛に大きな蹄の足が生えている。胴から伸びた太く長い首の先に鳥のような頭がある。
「ラッターはこの一匹だけ?」
「はい」
「でも、あなた達の分は?」
「お気にせず使って下さい」
「……分かったわ」
彼女は相当くらいの高い人物なのだろうか、土やほこりで汚れた服から伸びる細い手足は、擦り傷などによる血が滲んでいるのに、当たり前と言わんばかりに、見向きもしない、同年代の女子が足をどこかにぶつけただけで、声をはばからず出すのに。
「ちょっと、ぼうっとしないでこっちに来て!」
「え、あ!、ああ」
手慣れているのか二、三度撫でると、その動物は彼女にすり寄り、首縄を軽く引くだけで、おとなしくゆっくりと柵から出てきた。
傍らの兵士が大きく振りかぶるように鞍を動物にかぶせると、驚いたのか体をよじらせ暴れた。
「よ~し、よし」
彼女が一撫ですると、思いをくみ取ったのか、『しょうがないな』と言わんばかりに、動物は首を傾げ、彼女の顔を覗いた。
後方で大きく何にかが崩れる音と獣の叫び声が聞こえた。
「ここまで来たか……、早く乗って下さい」
彼女はうなづくと自分の背丈を上回る動物に向き、ふっと軽く息を吹くと、大きく足を振り上げ、鞍の取っ手に手を伸ばし飛び乗った。
「さあ早く貴方も乗って」
先に乗った彼女を見ていたが、馬にも乗ったことのない自分がそうやすやすと飛び乗れる訳がない。
鞍の位置を確認するが確実に自分の頭の上にある。鞍でさえ大きく膨らんだ腹に隠れて見えない。
飛びついたところで腹ばいに抱きついてずり落ちるのが落ちだろう。
「う、ええと」
「もう、もたもたしない!」
オレが手を伸ばし、膨らんだ灰色の腹をなで回してると、彼女がオレの襟首を掴み中へ放り投げた。
舞い上がった自分の体はラッターの背を超え宙に浮くと、そのまま腹を打つように鞍に覆い被さった。
兵士はそれをよそに納屋の裏口に駆け寄り、少し門を開けると、顔を突っ込み辺りを探った。
「今のうちに!」
兵士が渾身の力を込め門の片面を開ける。
門の先は、広い草原とその先にくらい林が広がりその後から朝日が昇っていた。
どう言うことだか分からない、居眠りでもしていたのか。学校から帰ってパソコンを立ち上げて、暇つぶしに怪しげな個人サイトのゲームをダウンロードしはずだ。
少なくとも朝が来るまで半日はあるはずだ。
「わかったわ!、さきに言ってます」
「ご無事を」
兵士の叫び声と共に、彼女が口縄を引くと、ラッターは大きく体を起こし、勢いよく走り出した。
激しく体を揺すり、大きく長い足を交互に伸ばし、一歩踏みしめるごとに大地は太鼓のように地鳴りをならし、そこに生い茂る、雑草ごとえぐるように後へ蹴飛ばし、大きく前進して言った。
「いったい、なにがおこってるんだ」
「勇者よ……」
「勇者?」
「あなた名前は?」
「ヒロヤ……」
「そう……ようこそ新たな転送者……いえ、勇者様」
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