第3話逃走

地を這うようなうめき声がオレの心臓をつかむ。

揺らめく炎の中にある、瞳はまばたきもせずこちらをまっすぐ見ている。

「速く立って!」

少女の叱責に一瞬心が奪われる。だがオレの心はそれ幸いにと、生存本能をかき立て、恐怖を爆発させた。

声にならない言葉を発した。

あまりの恐怖に声を出す前に息を吸うのを忘れ、肺に残った微かな酸素を声帯とうして吐き出すことでいっぱいだった。

炎の中の怪物が一歩、歩を進め、地面を踏み殺すような足音を合図にそこから背を向け、思いつくまま走った。

「ちょっ!、そっちはダメ!」

振り向いた先は、僅かに炎の隙間があった。

怖い、怖い、頭が恐怖でいっぱいだった。

逃げたい、逃げたい。

気がつくと炎の裂け目に突っ込んでいた。

肌を焼く暑さに目が覚める。

暑さに目をつぶり、瓦礫に足を取られ勢いよくつんのめってしまった。

そのままオレの体はふわりと持ち上がり、酷い勢いで地面に顔から着地すると、長い滑走路を顔面で作ることとなった。

痛い、

顔を庇ったせいで腕を酷くすりむいた。

だが、にじり寄る足音ですぐに我に返り、恐る恐る顔を上げる。

なんだ、何だこいつ、

何で素足で外出歩いてんだ、こんな砂利道そんな足で無理だろ

いや、っていうより足、なんでそんな色してんだ、馬鹿みたいに真緑で爪も黄ばんでまるで獣の爪みたいだ、それに何だか酷く臭い、公衆便所のあの嫌な匂いと、卵かなんかが腐ったような、タンパク質の腐ったにおいがする。

人は例えそれが恐ろしい物と分かっていても見ずにはいられない。

暗がりに目をこらすように、小さな物音に耳を澄ますように、怖ければ怖いほど、不安で確かめずにはいられない。

『ギョアアアアアアア』





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