第6話 異世界での無職が確定した日
街に着くと、おっさんが、俺たちにお礼がしたいと、家へ招き入れたくれた。
おっさんは、アデル・ソロトムという名前で、ここらじゃちょっとした有名人らしい。
そして、宿屋の経営者だそうだ。
森に調味料を採取しに行っていたところ、昼間出ないはずのガルデアに襲われて
たとのことだ。
美味しい料理をご馳走になった上に、しばらくの間、ここで泊めてもらえることになった。
カレンは用事があるからと、連絡先を書いたメモだけ俺に預けて帰ってしまった。
正直、かなり助かった。
アデルのおっさんには感謝しても仕切れない。
この世界のことを全く知らない上に無一文の俺が宿を探そうと思ったらやはり、難しいだ ろう。最悪、野宿を考えていた。
やはり人助けはしておくものだ。
「それじゃ、僕は疲れが溜まってるので少し休んできます。」
森では、切羽詰まった状況だったので、失礼な言葉遣いになっていたが、正気に戻ると、年功序列の厳しい日本で育ったので、年上相手では敬語を使わないと落ち着かない。
アデルは微笑んで返してくれた。
「うん!ごゆっくりね。」
その後、アデルに礼を言ってから、さっそく客室間に入ると、一目散に大きめのベッドが目に入った。
それだけ疲れていると言うことだろうか?
一応HPは全回復しといたけど、精神的な疲れまでは取れないようだ。
まあ仕方ない、今日一日でいろんなことがありすぎた。
俺はすぐにフカフカのベッドにドンっと寝転がった。
少し体を伸ばした後に、仰向けになりながら考える。
「これからどうしようかな。」
とりあえずステータスを再確認しておこう。
ステータスっと。
画面と文字列がサーッと表示される。
レベルが6... 1だけあがってる!?
普通、レベルってモンスターとかを倒して上げるもんだよな。
倒さなくても、危険を冒して乗り越えると経験値が貰えるってことだろうか?
てかMPやば!!
本当ギリギリだったんだな。
そっか、スキル使用にはMPによる制限があるのか...ちゃんと確認してなかった。
もし、あの時MP切れしてたかと思うと恐ろしくてたまらない。
今度からはちゃんと、MPゲージを確認しながら行動しよう。
ここは危険な異世界だ、何が起こるかわからない。
とりあえず、今日は運良く助かったけど、これからは..用心に用心を…重ねなけれ..ば…な…….。
よほど疲れていたのか、俺はまだ夕方だと言うのに眠ってしまった。
ーーー
ささやかな鳥のさえずりと眩しい光ともに俺は目が覚めた。
「朝?」
しばらくして、ここがいつもの俺の部屋ではないことに気づく。
夢じゃなかったんだ..。
やはり、俺は異世界に来てしまったのか。。
ベッドから起き上がり、靴を履く。
部屋を出てから数歩歩いたところで、タイミング良く階段を上がってきたアデルが声をかけてきた。
「お〜、レイ君、おはよう。」
「目覚めはどうだったかい?」
「疲れも取れて、スッキリ起きれました!アデルさんがフカフカのベッドを用意してくれたおかげです。」
本当は悪夢を見たおかげで、全然疲れが取れた感じはしない...が、建前上はこう言っておいた方がいいだろう。
「それは良かった!実は昨日、君を夕食に呼ぼうと思ったんだけど、疲れて寝ているようだったから、起こしては悪いと思って、そのままにしておいたんだよ。」
「確かに、完全に寝込んでましたね。。お気遣いありがとうございます。」
「これから皆んなで朝食を食べるから、君も一緒に来てくれ」
「はい!でもその前に、ちょっと顔を洗いたいので、手洗い場所に行きたいです。」
案内され、手洗い場所に行くと、顔を洗いながら考える。
((ビシャビシャ))
冷水でボーッとした頭がだんだんと冴えてた。
いろいろと不安事が尽きない..
金を稼いで自立することが生きていくための最重要項目だ。
いち早くこの世界での社会的な立場を確立しなければ..。
でも、少しくらいはポジティブにも考えよう。俺は根暗すぎる。
子供の頃からの習慣であった脳内一人会議終えたあと、寝癖だけ直して洗面所を後にする。
廊下の角を曲がって食卓に着くと、そこには、ダークブラウンの髪色の女の子がいた。
俺に気づいた女の子は立ち上がり、軽くお辞儀をする。
「父が命を救って頂いて、本当にお世話になりました。娘のセーラです。」
清楚な雰囲気を漂った綺麗な子だ。外見的に、歳は俺と同じくらいだろうか。
「僕の名前はレイ。よろしくね、セーラ。」
そういえば、ピーピングって人にも使えるのかな?試してみようか。
セーラ ソロトム
種族 ヒューマン
年齢 14
ええ、この子14歳だったの?
歳のわりに大人びてるな...
話を聞くと、セーラは回復魔術師志望で隣町の魔法学校に通ってるらしい。
それからは楽しく話しながら食べていた。
なんだか懐かしいな...
家庭が崩壊してから俺はいつもスマホを片手に1人で食べていることが基本だった。
一緒に食べる相手がいることは、こんなに楽しいことなんだな。
「それでは、私も隣町に用事があるから、私たちはそろそろ家を出るとするよ。そうだ、レイ君は今日どうするんだ?」
「今日はとりあえず冒険者ギルドに行ってみようと思います。」
「そうかそうか、だったら手数料や交通費が必要だと思うから、これを持って行きなさい。」
「ありがとうございます!」
おっさん…いいやつすぎるだろ!
そしてギルドの前に着いた。
入り口の扉を開けて入ると、そこは様々な種族の冒険者たちで賑わっていた。
なんだか、じろじろ見られている。俺が変わった格好をしてるからか。
中央に依頼の張り出しが貼ってある。あそこから依頼を選ぶのかな?
なんだか楽しみになってきた。
俺は早速受付へ向かい、勇気を出して受付嬢に話しかける。
「あの!冒険者として働きたいんですけど。」
「わかりました、冒険者登録ですね。」
「はい!登録で」
「では登録手数料500コロナと身元を確認できる書類の提示をお願いします。」
「はい!500コロナ...って身元の確認?」
「はい、確認書類の提示もお願いします。」
「忘れちゃったんですけど、...それって今、無いと登録できませんか?」
「はい、昔は無くても問題なかったのですが、最近、色々と大変なことがありまして、今では身元書類の確認は必須となっています。」
まじか...
冒険者登録できず。俺の異世界での無職が確定した瞬間であった。
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