第4話 森の獣


それからしばらく、たまに話をしながら街へ向けて歩いていたが、突然カレンが手をかざし小声で言った。


「ちょっと、静かに」


「急にどうしたんだ?」


俺も小声で返す。

そしてすぐに、カレンが見てる方向に俺も気付いた。



獣だ。かなり大型の鹿みたいな獣。

襲われたらひとたまりもなさそうだ。



「なんでガルデアが...夜行性のはずなのに...」


「ガルデア?それがあのツノの生えた獣の名前?」


「そうよ、ガルデアはモンスター。Cランクの冒険者が3人揃ってようやく倒せるくらいの強いモンスターよ。森の奥深くに住んでいて普段は夜行性のはずなの。それが、こんな昼間に活動してるなんて..」


「こうなったら、見つからないように、気をつけて進むしかないわ」


「わかった、気をつけなきゃだね」


俺たちは、ガルデアに見つからないように気をつけて進んだ。



しばらく静かに足を進めている中、突然



「♪♪♪♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪♪〜」




俺の制服の後ろポケットから愉快なマリンバが盛大に鳴り響いた。


まじか。


「ちょっと、何なのよ!?」


「ごめん!!」


まじで勘弁して!!携帯!!


慌てて音を止めたが、音に気付いた獣がこちらに向かってかけて走り出した。

どんだけセンサー鋭いんだよ、アイツ!!


「逃げるわよ!!」


「はい!」


(((マジでごめんなさい!!!)))


俺とカレンは全力で逃げたがガルデアは予想以上に速い。

「このままじゃ、追い付かれる」



ガルデアと俺たちの距離はだんだん縮まっていく。


「だめだ、もう、終わりだ..」



諦めようとしたその時


((((ドンッッ!!))))


ガルデアのツノが木に引っかかって、動きが止まった。


(((ブオォォォォオォォン!!!)))


ガルデアは雄叫びをあげる。


「今のうちよ!」


カレンが俺の手を引き、全力で走った。


走る

走る

走る

走る

走る

追いつかれたら絶対に死ぬ!!


かなり走ったころ振り返ると、ガルデアの姿は見えなくなった。


でも油断はできない。もっと遠くへ逃げなければ。


呼吸を荒くして疲れ果てている俺の様子を見てか、カレンは岩陰になっている場所に誘導してくれた。


「危なかったわね...てか、あんた大丈夫?」


「あ....ああ........大丈夫...だ......」


やばい、そういや俺、スタミナが全然無いんだった。

喘息持ちで呼吸系が弱いからか、持久走なんかだといつも最後の方走ってたタイプだ。


カレンも疲れてはいるものの、俺に比べて全然余裕そうだ。


これだけ走っておいて??...こいつが体力バカの可能性もあるな。


「全然大丈夫そうじゃないじゃない!というか、さっきの音は何だったの?」


「こ..これはスマホ...というもので.....」

まだ息が落ち着かない。後ろポケットからスマホを取り出して見せる。


「スマホ?その四角い板から音が鳴ったの?」


俺はコクリと頷く。



「こんな小さな板からあれだけの音が?魔道具?随分と不思議ね。。」


カレンが不思議そうな顔でスマホを眺めている中、ようやく息が落ち着いてきた。


「ほ..本当にごめん!!俺のせいで!」


「起こってしまったことは仕方ないし、いいわ。」


「でも困ったわね...逃げ切れたのは良いものの、出口とは完全に逆方向に来てしまったわ。」


「そっか...ガルデアのいた場所を通らないと街には行けない?」


「そうね..周り道できなくもないけど、周り道すると時間がかかるし、日が暮れて、獣やモンスターが出てくるから更に危険だわ...。」


今回の件は完全に俺の責任だ…。

何か方法はないのか?何か使える道具は?

スマホ、サイフ、カギ、マルチツール、ハンカチ、ポケットに入ってるのはそのくらいか..


!!


そういえば潜伏ってスキルがあったよな。

今度は観測してくれる相手もいるわけだし、試してみよう。


((潜伏))


んー、やっぱり特に変化した感じはないな。

自分の腕とか普通に見えるし。


「私が杖さえ忘れていなければ...って、あれ?急にどこ行ったのよ、レイ!?」


カレンが突然慌てふためく。


潜伏には成功してたみたいだ。

他人からは見えないようになってるってことか?

カレンが心配してるので、潜伏を解除して再び姿を見せる。


「ちょ、急に消えるからビックリしたじゃない!」


「ごめん、ちょっと使えるかなと思って」


「透明化魔法で隠れながら抜け出そうって考えね。でも獣相手じゃ嗅覚で気付かれるわよ。」


「潜伏ってスキルなんだけど、やっぱ鼻の効く獣相手じゃダメだよな...」


「潜伏!?あんたそんな珍しい魔法持ってるの??」


「珍しいのか?透明化魔法とは違うの?」


「潜伏は、気配そのものを隠す魔法よ。透明化と違って匂いや物音まで消してくれるらしいわ。でも習得が極めて難しいから使える人はほとんどいないと聞いたけど..。」


気配そのものを消すのか..、話を聞く限り石ころキャップみたいな感じかな。


「なるほど..、潜伏は仲間にも使える?」


「知らないわよ..、でも透明化だったら触れている仲間にも使えるわ。」


物は試しだ。


「えっ、急に何よ?」


俺はカレンの手を掴んで唱えた。


((潜伏))


そして、俺たちの気配は消えた。

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