第3話 赤毛の少女

森の道中には地球では見かけないような不思議な生物がいた。


火を吹いて狩りをする赤いトカゲに、羽ばたくたびに色を変える蝶。



「やはり、ここは..」



あれから、スキル欄にあったやつを試してみて何個か分かったことがある。


スキルは声に出して唱えなくても、強く念じるだけでも使えるっぽい。


暗視は暗いところも昼間くらい明るく見えるようになる。


スティールは近くにいたリスのような小動物の持ってた実を盗みとることができた。


そして、ピーピングはその小動物の詳細やステータスを盗み見ることができた。

生えてた植物の詳細も見ることができ、毒の有無も書いてあったのでかなり便利そう。


潜伏は自分ではできているのか、よくわからなかった。




森を抜けようとしばらく歩いていると、何やら慌てた様子の女性がいた。


何か落とし物でも探しているのだろうか?



この世界来てから初めて人に遭遇したんだ、近づいて話を聞いてみるか。


「大丈夫ですか?」


「..え?」


驚いた顔で立ち上がったのは、赤色の髪の少女。


少しツリ目だが上品で整った顔をした美人だ。


年は俺と同じくらいだろうか。

吸い込まれそうなほど淡い緑色の瞳...


っておっと見惚れてどうする。


助けた後に情報収集だ。



「いえ、あなたが困った様子でしたので、何かお困りでしょうか?」


「ええ...でも私の問題だから気にしないで」


ここで引き下がるな、頑張れ俺。


「そうですか...でも何か力になれるかもしれませんよ」


「実は、大切なブレスレットを落としちゃって..」


「ブレスレット?それどんな色ですか?」


「水色の..」


「水色か、探してみますね。」



水色のブレスレットかー、この人の細い腕にハマるくらいの..


地面のあちこちが背の高いの日陰になっていて、暗い。

これじゃ探しにくいのも無理ないな..。


そういえば、こんな時に役に立ちそうなスキルがあったな。


小声で唱える


((暗視))


唱えた途端サーっと、あたりが数段に明るなり、クッキリ見えるようになった。


うっわ、やっぱすごいなこれ。

これなら探しやすそうだ。


それから少し探していると、水色の細めのリングを見つけた。


あった!多分これのことだな。


リングを見つけ集中を切らすと暗視状態は解けた。

少女のいる方に駆け寄り、その華奢な肩をポンポンと叩く。


「ひょっとして、落とし物はこのことですか?」


「ん?」

振り向いた不安気な少女の顔は笑顔に切り替わった。


「それで間違いないわ!ありがとう!!」


「合ってたみたいでよかったです。」

 

「大切な物だったの..助かったわ。私はカレン。あなたは?」


「レイです。」


「ふーん、変わった名前ね、ありがとうね、レイ!」


「いえいえ、カレンさんはこれからどうするんですか?」


「んーそうね、私は町に帰るわ。あなたは?」


「実は、森で迷ってしまって、もし迷惑でなければ、森を出るまで案内してもらっても良いですか?」


「いいわ、ブレスレット見つけてくれたしね。あと多分、同じくらいの歳だし、気さくな言葉で構わないわ。私、敬語って嫌いなの、人との間に壁を作ってるみたいで薄っぺらいから。」


うわ、この人、見た目は綺麗だけど、性格は結構キツそう..


「じゃあ、ありがとう、カレンさん!」


「さん付けもいらないわ。」


「あ、ごめん。」


とりあえず、森を出るまではカレンが案内してくれるようだ。とりあえずは良かった。


「変な格好した人に声かけられたから、最初はびっくりしちゃったけど、レイは良い人ね。」


「はは、そうかな..。」

そういえば、俺は学校の制服のままだった。


この世界の人には、日本の学生服が変な格好に映るのか..

まあ、俺からしたら中世ヨーロッパみたいなお前の格好の方が変なんだけど...


「私はミレットから西の方にあるエルムって町出身よ。でも訳あって、今はスベニアに滞在してるわ。」


「ミレット?スベニア?」


「知らないの?ミレットはスベニアから北の方に位置する都市よ。それにスベニアはこの森を抜けた先の街じゃない。」


「レイは、一体どこの街の人なの?」


これ大概の漫画とかだと、遠い東の国から...とかいうやつだよな。でも、仮にこいつが地理マニアだったら掘り下げられて面倒くさいことになりかねないな。嘘の地名を言ってボロが出たら困るし..

かと言いつつバカ正直に、初対面の人間に異世界から来たなんて言ったら頭のおかしいやつだと思われるだろ。


ここは記憶を無くした設定で行こう。



「わからないんだ。実は俺、記憶がなくて」


「え?どういうこと?」


「自分の名前と言葉以外のほとんどの事を覚えていないんだ。目が覚めたら、森の奥で倒れてて..。多分、盗賊に襲われて、頭を打たれたのか、自分で転んで打ったのかで記憶がなくなってしまったんじゃないかな..」



「それ、すごく大変じゃない!!私のこと助けてる場合!?」


「はは、そうかも..」

本当は助けた後助けてもらおうとしただけなんだけどな。


何だろう? カレンが俺の胸元をじっと見ている。


「その服に書かれている文字…見たことない文字ね。」


「ああ、名札を見てたのか..」


「それ、名札って書かれているの?」


「いや、これには菜月って書いてあるけど..」


言葉は通じるのに文字は通じないのか??

そもそもなんで言葉は通じてるんだ!?


「その文字が読めることといい、変わった外見といい、あなたがこの国の人では無さそうね、おおよそ、旅行に来た際に野盗に追い剥ぎされた後、忘却魔法をかけられたとかかしら..?」


俺の付いた嘘にカレンが首を傾げている。



「はは、どうなんだろうね?..でも記憶がなくても、人としてちゃんと生活していかなきゃいけないし…とにかく、頑張るしかないね!」


「そうね、助けてもらったわけだし、私にもできることがあったら力を貸すわ。」


「ありがとう!」


良かった…やはり人には親切にしておくものだ。



「そうだ、街には僕みたいな人でもできる仕事ってないかな?」


「うーん、近頃は厳しくなってきてるから、身元がわからないようだとなかなか厳しいわね…でも、冒険者ギルドか荷物運びの仕事だったら大丈夫だと思うわ。」


冒険者ギルドがあるのか..。


「本当?じゃあ、とりあえずは冒険者ギルドに行ってみるよ」


「でも、冒険者で満足な生活費を稼ぐには実力がないとね...大抵の冒険者は、その他にも仕事をしているわ。」


実力が必要か..まあそりゃ、素人でも簡単に稼げるなんて美味しい話、どこの世界にもあるわけないよな。

仮にあったとして、そんなん意地汚いやつらがほっとくワケがない。あっという間に吸い付くされて無くなってるに決まってるか..。



「なるほど…まあ、バイトの掛け持ちには慣れてるし大丈夫かな..。」

いつもの独り言の癖で小声でボソッと呟いてしまった。


「バイト?」


「ううん、何でもないよ!」


食費や宿代、生きてくためには金が必要だ。

当然この異世界でもそうだろう。


元の世界に帰れるかどうかなんて、今のところ知る由がないから、まずはここでサバイブするために金策を考えなければな..

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