第44話
ヒュアとともに部屋へ入り、俺はしかれていた布団で横になった。
ベッドのほうを見ると、ヒュアは座っていた。
「これから討伐までは休めないんだ。いまのうちに少しでも体を休めておいたほうがいいぞ」
とはいうが、緊張などもあるだろう。
すぐに寝られるとは思っていない。
「……わかっています」
「必要ならばスリープの魔法を使おうか?」
対象を眠らせるデバフ魔法の一つだ。
相手の警戒心が少しでもあるとほとんど効かないため、こういった際の安眠用として使われる。
もちろん、睡眠が効くような魔物もいるのだが、それは極めてまれな話だ。
あまり使い道のない魔法ではあるが、ストレスなどを抱え、眠りにつけない立場の人間が個人的に雇うということもある。
前世でいえば多忙な貴族だろうか。ストレスを抱える環境に身を置く、騎士団などでも重宝されていた。
とはいえ、所詮は魔法で眠らせるものだ。
自発的に眠るのに比べ、脳が完全には休まないとも言われているが、まったく寝ないよりはいい。
「大丈夫です。ロワールさん、聞いてもいいですか?」
「どうしたんだ?」
不安があるのかもしれないし、聞いてやれることがあるのなら聞いておいたがほうがいい。
あいにく俺は一日二日眠らないで生活できるくらいの余裕はある。
勇者一行と旅をしていた俺は、過酷な状況に身を置くことも多かったからな。
勇者を狙ってくる魔物から逃走したり、戦ったりするために、寝られない日なんて結構あった。
「ロワールさんって、ここでの活動が終わったらどうするの?」
……予想外の質問だった。
ここでの戦いが終わったあと、か。
「まさか、ドラゴンを倒したあとのことを考えていたなんてな」
たいした大物だ。
俺の言葉に、ヒュアはからかうように舌を出して微笑んだ。
「ダメでしたか?」
「そんなことはない。最高だ」
ドラゴンを討伐したあとのことか。
まだ、確定していないが、いくつかやりたいこと……やるべきことが頭の中にはあった。
「旅をしていくつもりだ。ここで十分に金も稼げたからな。世界を見て回りたい」
「旅……」
「ああ。その中でもしかしたら、クランをつくるかもしれないな」
「クランを?」
「最高で、最強の軍団をつくりたいと思ってな」
俺がそういうと、ヒュアは目を輝かせた。
「私も……その旅に、ついていっていいですか?」
「ヒュアが?」
「はい! ロワールさんは嫌かもしれないですけど……その、私、ロワールさんと一緒にいたく――いや、その、そうじゃなくて……ただ、その……ロワールさんと一緒で、成長できたので! もっと、もっと強くなりたいんです!」
「そうか」
そう好意的な反応を見せてくれるのは、素直にうれしかった。
俺は軽く息を吐き、それから布団で横になり、目を閉じる。
「もちろんだ。一緒に来てくれるなら、頼もしい限りだ」
「ほ、ほんとですか!? それじゃあ、約束ですよ!!」
「ああ、そのためにも、まずはドラゴンを討伐しないとならない。……早く休むんだぞ」
「はい、わかりました!」
ちらと見ると、子どものように嬉しそうに微笑んでいた。
無邪気な子だ。本当に前世の勇者のようだ。
目を閉じた俺はそれから考えていた。
この町の結末を変えられるだけの力を俺が持っているのだろうか?
もしも、それが本当にできるのなら――未来を変えられるということだ。
……必ず、変えてみせよう。
拳を強く握りしめる。
この戦いは、町を守るためだけじゃない
――魔王からあの子を救うための、未来を変えるための初めの戦いだ。
〇
十分に休息をとったあと、俺たちは宿を出た。
宿を出たところに、ロニャンがいた。
「もういくんですね?」
「ああ、そうなるな」
「ロワールさん、絶対倒してきてくださいね」
「ああ、わかってる」
ロニャンの視線がヒュアに向く。
「この前まで毎日生活するのもやっとだって言っていたのに……」
「よ、余計なこと言わないでください」
「町の未来を守るほどの子に成長するなんてね」
「ロニャン……」
お母さんか。
ロニャンがぎゅっとヒュアを抱きしめる。
ヒュアは恥ずかしそうに一瞬ロニャンを見たが、ロニャンの頬を涙が伝うのを見てから、ヒュアは唇をぎゅっと結んだ。
「頑張ってね、ヒュア」
「ロニャンも、町のことお願いします。私、またこの町に戻ってきますから!」
「うん、もちろんだよ!」
ロニャンがヒュアから離れたところで、ロニャンは町の奥へと向かった。
門へとやってくると、すでにパーティーメンバーの四人がいた。
門周辺では、冒険者たちも多く集まっている。
魔法で作ったのだろう、町の内側にもいくつもの防壁が作られている。
そこにいた冒険者たちが俺のほうへとやってきた。
「ロワールさん! 必ずドラゴンを討伐してきてくださいね!」
「ああ、わかっている。みんなも俺たちが戻るまでの間、町を頼んだ」
「もちろんです! ロワールさんが用意してくれたポーションだってありますから!」
冒険者たちからの視線を受けながら、俺はセルギウスの隣に並んだ。
「それじゃあ、ロワール。行こうか」
「ああ」
セルギウスは一度振り返り、それから声を張り上げた。
「必ずあのドラゴンを討伐し、オレたちはここに帰還する! すべてが終わった後は、盛大な宴を開くぞ!」
セルギウスが叫ぶと、冒険者たちからの雄たけびが返ってきた。
それに満足したセルギウスが皆に背を向ける。
歩き出したセルギウスを先頭に、俺たちは門を出た。
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もしも時間のある方は、新作の『ハズレスキルで追放された俺は、わがまま幼馴染を絶縁し覚醒する ~万能チートスキルをゲットして、目指せ楽々最強スローライフ!~』、『不遇職『鍛冶師』だけど最強です ~気づけば何でも作れるようになっていた男ののんびりスローライフ~』も読んでくれれば嬉しいです。
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