第43話
セルギウス、キャッツとともに奥へと向かう。
その途中で俺はオンギル、クライ、ヒュアの三人も呼んだ。
「オレ様の力が欲しいってことか?」
「ああ、そういうところだ」
オンギル、クライ、ヒュアがいれば戦力としては十分だ。
ギルドの奥へと向かい、冒険者が見えなくなったところで俺は息を吐いた。
ああいう演技はあまり得意じゃない。
俺の様子が変化したのに気づいたのだろう、セルギウスが口元を緩めた。
「……まさか、すべて演技だったのか?」
「そんなところだ。ただ、ドラゴンを討伐するってのは紛れもない真実だが」
「……大した男だな。キミは」
「それはセルギウスも同じだ」
「そんなことはない。あの場ではロワールがいなければ、脱走しようとする冒険者を押さえることはできなかった」
「なら、俺が居合わせたっていう運を持っているんだろう。良かったな」
俺が言うと、セルギウスはふっと笑って会議室に入る。
長いテーブルが置かれたその部屋で、俺たちは席についた。
俺の向かいに座ったセルギウスが、首を傾げた。
「……先ほど、キミが話していたドラゴンの情報は本当なのか?」
「本当だ」
俺が言うと、オンギルがぐたっと椅子の背もたれに体重をのせた。
「ドラゴン……まさか体内に二つの魔石を持っているとはな……。あんなやべぇ回復は初めてで、さすがに驚いちまったぜ」
「見た目は違うが、あの再生はスライム種の魔物と似たようなものだな」
俺の言葉で、全員が納得したようだ。
だらだらと話している時間はない。
さっさと話を進めないとだな。
「厄介な魔物だが、こちらの攻撃は確かに効いていた。もちろん、ドラゴンだってまだ本気ではなかっただろうが……我々なら確実に勝てるだろう」
俺が言い切ると、セルギウスが鋭い目を向けてきた。
「本当、なのだろうな?」
「ああ」
「状況は、理解しているな? ……今度はドラゴン討伐に向けて全戦力を出すわけにはいかない」
「町の防衛のためにも、冒険者を残す必要がある。だから、俺はここにいる六人で挑もうと思った」
「……なっ!」
セルギウスが目を見開き、俺に何かを言おうとしてきた。
それに、片手を向ける。
「まずセルギウス、ここは迷宮ということは理解しているな?」
「ああ……だからといって、ここにいる六人では――ランク的にも問題はないか?」
ずばりとセルギウスは言う。
「確かに実力だけなら、『剣閃雷撃』の高ランク冒険者を連れていく必要があるだろう。……だが、ここにいる皆はすでに俺と何度か戦闘をこなしている。バフの制御も含めれば、セルギウスのメンバーとそう変わらない実力だろう」
「……確かに、そのとおりだな。キミのバフは、はっきり言って尋常ではない力を持っているからな……だが、六人というのは一体?」
……知らないのだろうか。
いや、無理もないか。
この時代がどれほど昔か分からないが、迷宮が恒常化した世界ではない、というのを俺は未来の歴史で知っている。
迷宮の基本的なルールである、『大人数での移動による発生するモンスターの増加』、を知らないというのもおかしくはない。
……まあ、俺のこの知識はあくまで俺の時代の迷宮での話だ。
この時代では違うのかもしれないが、恐らく同じだと思う。
ドラゴンに逃げられたあと、町へと戻るまでに出現した魔物は、明らかに異常な数だったからな。
「迷宮では六人までの行動を推奨されているんだ。六人よりも上……七人以上で行動してしまうと、出現する魔物が増加してしまうんだ」
「……なんだと!? どうして、そんなことを知っているんだ!?」
「昔、祖父に聞かされたことがあったんだ。俺も詳しくは知らないが……祖父はどうにも迷宮に対して熱心な男でな。その受け売りだ」
ヒュアは俺の言葉を聞いて、少し納得した様子だ。
彼女だけは俺の前世について知っているからな。
セルギウスが顎に手をやり、頷く。
「なるほど、な。……だから、六人、か」
「ああ。これ以上の人数だと、迷宮内の移動に時間がかかってしまう。そもそも、大人数での行動はそれだけで移動が難しいからな」
「……そうだな」
規模が大きくなればなるほど、移動は難しくなる。
戦争での行軍がいい例だ。だからこそ、奇策としてあえて人数を削っての襲撃などの駆け引きもあるのだからな。
「ここにいる五人を指名したのは、俺のバフに慣れていること。セルギウスに関しては……この中でもっとも能力が高いことがあげられる」
「……そうか。だが、このメンバーではだれがタンクを引き受ける? 前回の戦いでは、オレの部下たちがドラゴンの攻撃を受け止めてくれたはずだ」
「敵の攻撃は、かわせばいい。タンクはクライと、ヒュアに任せる」
俺はクライを見て、その肩を叩いた。
「任せてもいいな?」
「まあ、ね」
クライも成長している。今回はまったくビビっている様子がない。
クライの返事を聞いて、キャッツがセルギウスに言う。
「前回の戦闘でも、クライとヒュアが敵の攻撃を引き付けて、かわし続けてくれたにゃ」
「……わかった。攻撃に関してはオレと、オンギル……それにキャッツとロワールの魔法ということか?」
メインのアタッカーはセルギウスとオンギルになるだろう。
魔法に関してはキャッツに任せるのだが……だとしても、俺まで攻撃に加わるわけにはいかない。
「そうだな。ただ、俺はバフ、デバフ、回復の三つを担当させてもらう。攻撃に関しては、そこまで加われないと考えていてくれ」
「……三つ、か。それだけでもう、バケモノだなロワールは」
セルギウスが、微笑んだ。
その顔から緊張がようやく抜けたようだ。
「わかった。出発はいつにする?」
「五時間後にしよう。みんな、さすがにこれまで活動して疲れているし、仮眠をとってから向かう」
さすがに体力が減ったままでは勝ち目も減る。
「そうだな。よし、オレはクランメンバーに伝えてくる。みんな、またあとでな」
セルギウスが立ち上がると、キャッツも同じように立った。
「私も、リーダーを手伝ってくるにゃ。それじゃあ、またあとでにゃー」
キャッツが手を振ってセルギウスとともに部屋を出る。
……セルギウスも随分と疲労しているようだったからな。
彼らがいなくなったことで、慣れ親しんだメンバーが残った。
オンギルがこちらを見てくる。
「相変わらず、とんでもねぇ奴だなおまえは」
「そうか? オンギルこそ、ドラゴンと戦うというのに随分な笑顔じゃないか」
「はっ、言ったろ? やられっぱなしは気にくわねぇってよ」
「そうか。その言葉、期待しているからな」
「おう、こっちもな」
お互い向き合い、一度手をかわした。
未だ座っていたクライへと目を向ける。
「どうした、遅れてビビっているんじゃないだろうな?」
「僕は……ビビッていないさ」
「そうか、タンクは任せる。おまえならきっとできる」
「……」
クライは俺の言葉を聞いてから、じっとこちらを見てきた。
「……さっきの言葉は訂正するよ。僕はビビってるよ。戦うのは怖いし、タンクだって不安だよ」
「そうか。恐怖は大事だ。悪いことじゃない」
「うん。……でも、僕は戦える。僕を信じてくれている人がいる。だから……逃げられないよ」
「そうか。ありがとう、信じている」
「……うん、僕もね」
今の彼には、俺の言葉もプレッシャーにはならないようだ。
一度握手をしたところで、俺たちは会議室を出た。
「俺たちも一度部屋で休む。それじゃあ、またあとでな」
「おう、寝坊してくんなよな」
オンギルが軽口を言ってくる。
「ヒュア、一度宿で休むぞ」
「はいっ!」
俺はヒュアとともに宿へと戻った。
_____________________________________
もしも時間のある方は、新作の『わがまま幼馴染と別れた途端、何やら女子たちの目の色が変わりましたよ?』も読んでくれれば嬉しいです。
下の作者名あたりクリックすれば、移動しやすいと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます