第30話


 ダークパンサーがいなくなったことで、森は再び魔物たちの住処となった。

 これまでどこに潜んでいたのかと思いたくなるほどに、魔物をあちこちで目撃することができた。

 ただ、チビパンサーの姿はない。やはりあのダークパンサーが親として生み出していたのだろう。


 まずは準備体操がてら、ゴブリンと戦闘をしたのだが、ヒュアがあっさりと仕留めてみせた。

 俺の支援魔法を受けている状態だったが、なくても戦えそうなほどに余裕だった。


「ヒュアは疲れとか残っていないか?」

「はい! というか、クライさんのようにずっとタンクをしていたわけじゃないですからね! ロワールさんこそ大丈夫ですか? 昨日は一番頑張っていましたし、少し心配です」

「俺は大丈夫かな」


 昨日の戦いでは、確かにヒュアは他の人よりも負担は少なかっただろう。

 だが、サブタンクとして動いていたし、それなりに大変だったと思うが。

 まあ、見たところ強がりでもなさそうだ。


「それなら良かった。とりあえず、ストーンハンドを探しに行くとするか」

「はいっ」


 森の中腹まで移動する。

 通常のゴブリンよりも強い個体を見かけるようになったのが、一つ大きな変化か。

 

 ……それと、チビパンサーの存在だな。森のもっと奥には、まだダークパンサーがいるのかもしれない。

 ストーンハンドは、確か地中を移動して生活していたはずだ。

 俺は地面に向けてサーチ魔法を使用し、ストーンハンドを探していく。


「ヒュア、そこにストーンハンドがいる。掴まれないように気をつけるんだ」

「……わかりましたっ」


 ストーンハンドが隠れている地面を剣でたたくと、ストーンハンドがひょこりと姿を見せた。


 ごつごつとした岩のような手をしている。サイズは人間の胴ほどはあった。

 俺の剣をつかみ損ねたからか、どこか憤慨しているようにも見えた。


 手をばっと開くと、手のひらに人間の目のようなものがついていた。それがぎろりと俺を睨んできた。

 手に握りしめていた土の塊をこちらへと投げつけてきたので、B・ウィンドで弾く。


「これがストーンハンドですか。ごつごつしていて、剣だと戦いにくそうですね」


 俺の隣に並んだヒュアが顔を顰めた。


「ああいう魔物は腹で叩くほうがいいだろうな。スケルトン種と戦うように砕く感じだ」

「そうですね……っ、やってみます」


 ヒュアが剣を構えたので、彼女に支援魔法を施す。

 速度があがった彼女は、素早くストーンハンドに肉薄する。

 ヒュアに合わせ、ストーンハンドが手を伸ばす。


 だが、すでにそこにヒュアはいない。ストーンハンドの背後――手の甲側へと周り、剣で殴りつけた。

 よろめいたストーンハンドが振り返るように手のひら側をヒュアに向ける。


「確かに動きは遅いですけど、手ごたえがないですね……っ」

「けど、安全に狩りができるし、このまま進めていこうか。ヒュア、支援魔法はパワーアップだけでいいか?」

「はいっ、これならスピードアップは必要なさそうです」


 ヒュアへの、支援魔法を切り替える。

 体を軽く動かしたあと、ヒュアがストーンハンドへと迫る。

 ヒュアが三度ほど殴ると、ストーンハンドは地面に溶けるように消えた。

 後には、魔石と石が転がった。石を拾い上げたヒュアが俺の方に持ってきた。

 ……たぶんだが、


「魔鉱石、ですか?」

「ストーンハンドの証明部位、だな」


 あまり魔力は入っていないようだが、武器や防具を造る際に使われる鉱石だ。

 魔力を帯びたこの鉱石は、通常のものとは比較にならないほど頑丈だからな。


 それからしばらく、ストーンハンドを探して狩りを行う。

 俺が魔法で仕留めてしまえばそっちのほうが早く終わる。

 だが、それではヒュアの経験にならない。

 

 俺もランクアップはしたいが、それはヒュアのランクを俺に合わせてからでも遅くはない。

 俺だってまったくランクアップに必要な経験が溜まらないわけじゃないしな。


「ヒュア、そろそろ一度休憩をはさむか?」

「……はい、そうですねっ」


 ヒュアが額の汗をぬぐったところで、戦闘を切り上げる。

 彼女は持ってきていたタオルで汗をぬぐっていく。

 そんなヒュアに近づき、声をかける。


「このあいだに俺は、薬草をとってくる。ヒュアはどうする?」


 彼女の隣に並んで訊ねたが、ヒュアはさささ、と俺から距離をとるように動いた。

 あれ、引かれてる?

 

「え? なんかしたか俺? 悪い、悪い」

「ち、違います! そ、その……今汗を凄いかいちゃってますから……」


 ヒュアは汗の臭いを気にしているようだ。


「そんなの気にしなくて大丈夫だ。俺は構わない」

「く、臭いのが好きなんですか?」

「そうじゃない。というか、別に臭くもないだろう」

「わ、分からないじゃないですか! それに私は気にするんですっ」


 ヒュアが恥ずかしそうに声をあげた。

 ……まあ、そういうなら無理に干渉しないほうがいいな。 


「それじゃ、俺は薬草取りに行ってくるから、何かあったら声を張り上げてくれ」

「わかりましたっ」


 ヒュアの姿が見える程度の距離で、薬草を集めていくことにする。

 この辺りには、薬草が結構ある。

 皆、ストーンハンドの不意打ちを恐れて、採取をしていなかったのかもしれない。


 根っこからもって行って、向こうで栽培したいが、さすがにその環境がないしな……。

 一度植え替えれば、栽培は難しくない。前世での趣味の一つがガーデニングだった。


 薬草は育てるのが簡単で、金になるため宿の庭などで育てるのはよくある話だった。

 戻ったらロニャンあたりに相談してみようか。

 どこか、使える土地があればいいのだが。


 薬草を片手で掴める程度回収してから、ヒュアがいる場所へと戻ってくる。

 まだ、汗の臭いを気にしているようで、ちょっと距離がある。


「ポーションってどうやって作るんですか?」

「実際に見てみたほうがわかりやすいと思うけど……スキルを用いての作製なんて色々過程すっとばしたもので、見ていて面白い物じゃないと思うけど、それでもいいの?」

「はいっ、一度見てみたいんです!」


 ……まあ、そういうならいいか。

 俺は購入しておいた瓶に薬草をひとつかみいれる。


「本来なら、色々な過程があるが……スキルはそれをすっ飛ばして結果だけを得ることができるんだ」


 そこに魔法で作った水を流し込み、ポーション製作のスキルを発動する。

 二つのアイテムが混ざり合い、綺麗な青色の水が出来上がった。

 青色のポーションは、まるで星でも入れたかのような輝きを放っていた。


「……凄い、綺麗」

「まあこれが基本のポーションだな。Cランク、か。初めはこんなものか」


 前世の知識を総動員したわりに、質は思ったより低かった。

 Bランクはできると思ったんだけど……そう思っていると、ヒュアが口をあんぐりと開けていた。


「し、Cランクですか!?」

「ああ……なんだ何かおかしいか?」

「だ、だって、普通だと良くてDランクくらいですよ! ……そんなあっさりとCランクのポーションってできちゃうんですね」


 知らなかった……。

 そういえば、この時代のポーションを見たことがなかった。

 俺は回復魔法しか使っていなかったしな。


「それなら、このポーションだけでも生活していけるかもな」

「全然、余裕だと思います。ポーションを売るための店を構えたら、連日大盛り上がりなはずです!」

「……そうか。まあ、ポーションの値段価値が変化してしまうかもしれないが、今は作れるだけ作って、ギルドに売りたい。お金は稼いで損はないし」

「この町であれば、それほど気にすることもないと思いますよ。ただ、Cランクとはいえそれを買い取り続けるだけの余裕もないと思いますから、多少安く取引されちゃうかもしれませんけど」

「そうなったら、仕方ない。薬草売るより金になるなら、ポーションで買い取ってもらえばいい」


 とりあえず、今後の金策としてポーションの販売が一つの候補になった。

 あとは、『賢者』スキルの一つである魔道具作製が手に入ればいいんだがな。


 そうすれば、ヒュアのためにクロスボウを作製してやれるかもしれないしな。

 とりあえずの目標は『賢者』をBランクにすることだな。

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