第31話


 さらにストーンハンドと戦っていく。

 日が落ちるころには、ヒュアも戦い慣れてきたようで、ストーンハンドを倒す効率はさらに上がった。


 魔物たちは夜目がきく。わざわざ、魔物たちが有利な戦場で狩りを続ける理由もなかったため、俺たちは完全に暗くなる前に町へと引き上げた。

 町につき、それからギルドへと移動する。

 受付は混んでしまっていたが、ヒュアと話していると列はあまり気にならなかった。

 早速討伐したストーンハンドの素材が詰まった袋を受付前の床に置いた。

 受付は頬を引きつらせていた。


「……こ、これ一日の討伐量ですか?」

「ヒュアが頑張ってな。効率よく倒せたんだ」


 そういうと受付はいくつかの魔石を確認したところで、大きく頷いた。


「ロワールさんが言うのなら、間違いありませんね」


 ……どうやら職員たちにも俺の信用度はあがっていたようだ。


「本当、前の時も思いましたが、凄い効率よく狩りができますね」

「サーチ魔法でストーンハンドが発見できる。相性が良かったんだよ」

「ストーンハンドも見つけ出せるほどのサーチ魔法なんですね……。それでもやっぱり、凄いですよね。優秀な冒険者でも一日に二桁行くかどうか……倒すのも大変ですからね」

「実はここだけの話、ヒュアって馬鹿力なんだ」

「ロワールさん! ロワールさんの支援魔法があったからです! 誤解されるようなこと言わないでください!」


 ヒュアがぷくーっと頬を膨らました。

 素材はあとで個数を確認し、後日資金の準備を行ってくれるそうだ。

 以前と同じだな。


「以上でよろしいでしょうか?」

「あー、いや。それともう一つ、だな」

 

 俺は一つのポーションを受付に差し出した。

 ビンに入った青色の液体を見て、受付が目を輝かせた。


「綺麗なポーションですね。私、ポーションをよく見るんですけどかなりの質ですね。……Cランク程、でしょうか?」

「ポーション製作できるようになったんだけど……それでつくってみたんだ」

「これをロワールさんが!? これほどのポーション、この町では滅多に取引されませんよ!」


 ……やはり、ヒュアがいうとおり珍しいか。

 前世では、当たり前のようにB、Aランクのポーションが出回っていたからな。


「これをロワールさんが作製したんですか……?」

「まあ、ね。とはいえ、これが最高で、あとはDランクポーションくらいしか作れないけどね」

「Dランク、くらい!? それでさえ、今うちで作製しているものよりもずっといいですよ! 稀に、運がいいとDランクができるくらいなんですから!」


 職員の言葉が聞こえていたのだろうか。

 近くにいた冒険者が俺たちのほうにやってきた。


「ロワール、おまえCランクポーションなんて作れるのかよ!?」

「それ、売ってくれよ! もしものときのために持っておきたいんだよ!」

「ダメですよダメです! 商人登録されていない人による販売は禁止されているんだからね!」


 職員が冒険者たちをしかりつける。冒険者たちは名残惜しそうに俺のポーションを眺めている。

 いずれはBランクやそれ以上のものを作れるようになるだろう。

 そうなったら、大変なことになるんじゃないだろうか。


「とりあえず、ギルドで買い取ってもらうことは可能なの?」

「も、もちろんです! むしろ、こちらから頼んで納品してほしいくらいですっ!」


 そういってもらえるなら助かるな。


「それなら、この町にいる間はポーションを作製しにこようか?」

「本当ですか? ちょっと待ってください、サブリーダーに確認してきます! あっ! リンナ! ちょっと私の代わりに受付お願い!」

「えー、わかりましたよー仕方ないですねー」


 受付が変わるのに合わせ、俺とヒュアも後ろの冒険者に譲った。

 受付に座った職員が列に並んだ冒険者の対応を行っていくのを眺めていると、先ほど奥に引っ込んだ職員とともにキャッツが現れた。


「昨日ぶりだにゃー、ロワール」

「ああ、昨日ぶり。それでポーションの話はきいたか?」

 

 伝えると、キャッツは口元を緩ませた。


「聞いておるにゃよ。やってくれるのなら、毎朝百個程度の納品をお願いしたいんだけどいいかにゃ?」

「素材に関しては、そちらで用意されたものを使わせてくれるのか?」

「もちろんにゃ。ただし、本来の売却価格よりも安くさせてもらうにゃよ」


 そこはしっかりしているな。

 素材に関してはギルドのものを使うんだし当然だろう。


「それで構わない。ただ、さっき渡したポーションは新鮮な薬草を用いて製作したものなんだ。もしかしたら、こちらで保管されている薬草ではDランクポーションに下がってしまう可能性もあるけど……」

「……いや、そこはまったく問題ないにゃ。ポーションはランクで買い取り価格を決めるにゃ。というか、Dランクでも十分すぎるくらいにゃんだけど……」

「そうか、それならよかった」


 Cランクを期待して納品のお願いをされていたのなら、それを裏切ることになる。

 事前に確認しておかないといけないからな。


「それと、朝受付が聞いたけど、薬草の保存方法についてにゃんだけど……」

「それについては先に謝罪させてほしい」

「え? にゃ、にゃんの話にゃ?」

「いやぁ、さ。俺が知っている薬草だと朝伝えたように管理するのが当たりまえなんだけど、この地域の薬草だとまたやり方が違うかもしれないと思ってたんだ。もし、ダメにしちゃってたら魔石とかポーションの作製で代金を補うからな」


 俺が伝えると、キャッツはぶんぶんと首を振った。


「そ、そんなことなかったのにゃ! ロワールの言う通りにやってみたら、今日納品された薬草はまだまだ野に生えているときと同じくらいイキイキしていたにゃ! これは大発見にゃ!」

「え? そうなのか? それならよかった」


 俺がほっと胸をなでおろしていると、キャッツが苦笑していた。


「そんな心配していたのかにゃ?」

「そりゃあな。俺のせいで薬草全部だめにしたってなったら、大変だし」

「そんなことはなかったのにゃ。それにしても……今日も凄い討伐してきたみたいにゃ」


 キャッツは俺が持ってきた魔石の入った袋を見ている。


「まあ、動けるときに稼がないとな。いつダメになるかわからないんだし」

「なるほどにゃー。ほとんどの冒険者が休日か午後に少しだけ働いていただけなのに、あの量の魔物を討伐してくるにゃんて、働き者だにゃー」

「そりゃあ俺が体を休ませるのが下手なだけだ。そっちのほうが正しいんだ、きっとな」

「昨日はそんなにはしゃがなかったのかにゃ? そういえば気づいたらいなくなってたにゃ」


 キャッツに絡まれたあと、俺は適当なタイミングで宿に戻った。

 キャッツはどこか不満そうだった。


「あまり夜更かしは得意じゃなくてな。魔物との戦闘でも疲れたし、宿で休んでたんだ」

「そうなのかにゃ? それなら、今夜一緒に飲みでも行かないかにゃ?」

「今夜?」

「そうだにゃ」


 それも悪くないかもしれない。キャッツにも色々と聞きたいこともあったし。

 そんなことを考えていると、ヒュアがぐっと肘を引っ張ってきた。


「ロワールさん。宿で食事が待っていますよ。きちんと帰らないと、食糧を無駄にしてしまいますっ」

「あー、確かにそれはそうだな。よし、それならまた今度にするか……」

「……それなら、明日のお昼にでもどこか行かないかにゃ?」

「本当か? それなら何も問題ないしな」

「ろ、ロワールさん。お昼はいつもお弁当を用意してもらっていますっ! 外で食べますよねっ! 難しいですよ!」

「そこは、ほら、調整とかしてどうにかな」

「稼げるときに稼ぐって言っていたじゃないですか! ほら、そろそろ宿に戻りますよ! キャッツさん、ありがとうございました!」


 ヒュアは一方的にそういって俺の肘を掴んで引っ張っていく。

 キャッツがむーっと唇をすぼめてこちらを睨んでいたが、俺はヒュアに連行されるようにギルドを出た。


「ロワールさん……鼻の下伸びていましたよ」

「生まれつき鼻の下が長いんだ」

「キャッツさんの胸を見てたじゃないですか。確かに今日の服は、胸元が見えましたけど……露骨でしたよっ」

「いや、胸を見ていたわけじゃない。服がきつそうだったからな、服が破けないかと服のことを心配していたんだ。服に優しいから」

「……」

「なんだよ……。いやな。男なら多少はそういうのに興味があるもんなんだ」

「わ、私もですか?」

「見る場所ないだろう」

「……うーっ!」


 じろーっとヒュアが睨んでくる。

 まあ、嫉妬に似たようなものなんだろうな。

 ヒュアはあまり男性と関わってきていないみたいだしな。

 そもそも、エルフ族の女性は、あまり異性と仲良くしない。


 異性を自分の領域に入れた場合、かなりの信頼を置いていることになる。

 俺もそれなりに信頼されていて、ある程度の好意を抱かれているのだろう。


 エルフ族は嫉妬しやすい。

 それは友人関係でもあるそうだ。大好きな友人が別の友人と話しているのを見るだけで嫉妬するとかも聞いたことがある。

 ……まさに、今がそれなんだろう。

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