第29話
宴の後、俺は部屋でぐっすりと眠った。
次の日。朝起きて食堂に行ったのだが、静かだった。
「あっ、町の英雄じゃないですか。おはようございます」
「ロニャン、今日は随分と静かだな。何かあったのか?」
「いやー昨日あれだけ騒いだあとですからね。むしろ、朝普通に起きてきたロワールさんにびっくりです」
「一応、朝の鍛錬はさすがに休みにしたぞ」
俺は二人分の食事を受け取り、ヒュアと自分の前に置いて座った。
なるほどな。
今日はほとんどの冒険者が活動を休みにしているのかもしれない。
「今日はどうするヒュア?」
「そうですね……私は普段通り活動したいですが、ロワールさんはどうですか?」
「俺もそれでいい。ちょっと試したい事もあるし」
「試したい事ですか?」
意味深に言うとヒュアも気になるようで首を傾げた。
俺がヒュアのほうにステータス画面を見せると、ヒュアは目を見開いた。
「し、Cランクにあがったんですね! おめでとうございます!」
「ありがとう。それで新しいスキルも覚えたんだ。これからそれを試したいってわけだ」
「え!? どんなスキルですか?」
「ポーション製作だ。これからはポーションを自分で用意できるってわけだ」
「それは、お店で買う必要がなくなるってことですよね? お財布に優しくていいですね!」
そういうことだ。薬草さえあれば、ポーションの製作が行える。
これは非常に便利だ。
また、俺はポーション製作に関して、ある程度の知識を持っていた。
実はポーション製作は僧侶で覚えられるスキルでもある。……俺は覚えられなかったが、覚えるもんだと思って勉強していたからな。
そのおかげで、ポーション製作も前世の知識を活用して行える。
「とりあえず冒険者ギルドにいって薬草をいくつか購入したあと、依頼を受けようと思っている」
「そうですね! 新しい依頼もあるかもしれませんし……っ! 私も成長しましたしね!」
「確かに。もう少し難易度の高い依頼でもいいかもな。とりあえず、ギルドに行ってから色々考えようか」
「はい!」
朝食を終えたところで、俺たちは冒険者ギルドに移動した。
ギルドも静かだった。職員を含めて、ほとんど人がいない状況だ。
こんな光景はこれから先しばらくは見られないかもしれない。
俺たちが依頼を探しに掲示板へと行くと、職員が疲れた様子で依頼書の確認を行っていた。
視線があったので、軽く会釈すると職員が驚いたようにこちらを見てきた。
「ロワールさん、今日も依頼を受けるんですか?」
「まあな。何か、今日は新しい依頼はあるのか?」
「いえ、今のところは特にありませんね。……それにしても、昨日の疲れは残っていないんですか?」
「大丈夫だ。それに今日は軽めの依頼で終わらせるつもりだしな」
俺もこっちに来てからしばらく動きっぱなしだったしな。
軽めの、調整のような気分で仕事をする日があってもいいだろう。
「『賢者』のランクがCにあがったんだ。その更新を行っておきたい」
冒険者カードに登録されている情報はなるべく最新のものにする義務がある。
「Cランクにあがったんですか! おめでとうございます!」
「ほら、これだ……頼む」
俺は彼女に職業を見せた後、冒険者カードを渡した。
受付に向かい、冒険者カードへの書き込みを行っている間に、彼女に問いかける。
「ランクアップしたときに新しいスキルとして、ポーション製作を覚えたんだが、それを使ってポーションを製作したい。薬草とかって余ってないか? あれば売ってほしいんだが」
「ええ、構いませんよ。こちらにいくつか薬草を保管していますから……ちょっとまってくださいね」
冒険者カードへの書き込みが終わり、カードを受け取る。
改めて、賢者 Cランクという文字を見ると、心が躍る。早く外に行って、魔法なども試したい。
運ばれてきた薬草は、すべて木箱に入っていた。
……そのせいで、しおれてしまっているものもあった。
「この保管は、正しいのか? なんかみんな元気なさそうだけど……」
「……そ、そうですかね? ごく一般的な管理の方法なんですが」
「うーん……」
俺の前世の知識では、薬草などには別の保存方法が用いられた。
だから、違和感があった。
「管理に関しては魔力の入った水に浸しておいたほうがいい」
「え? 乾燥させておくのではないですか?」
「それは遠征など、長期で運ぶ場合は仕方なく行うが……だいたいの場合は、先ほど俺が言ったやり方のほうが、より効果の高いポーションが造れるはずだ」
前世の時代からはるか昔では乾燥して管理していたらしい。
ただ、のちに分かったのは魔力水につけておくというやり方だった。
俺たちの時代から時間が経過し、文明レベルが落ちてまた戻ってしまったのだろうか。
「か、確認してみますねっ。もしもこれが本当でしたら、凄い大発見ですよ!」
「俺も風の噂で聞いた程度だ。……万が一間違っていたらすまない」
「いえ、試してみないとわかりませんからね!」
……簡単に説明をしたはいいが、よく考えたら俺の知る時代と今では薬草の遺伝子情報が変わっている可能性がある。
そうなると、先ほど俺が提案したやり方では間違っている可能性もある。
せめて自分で試してから伝えるべきだったかもしれない。
「あっ、ロワールさん。薬草がダメなら、森に採取に行けばいいんじゃないですか?」
「確かにそうだな。薬草の採取依頼もあっただろうし……とりあえず、掲示板でもみてこようか」
「はい!」
受付にお礼を伝えてから、俺たちは掲示板の前に移動する。
ヒュアのランク上げも考えると、これからはDランクの魔物を優先的に討伐していくほうがいいだろう。
今の彼女なら、Cランクくらいの魔物でも戦えると思うが、一応は安全にな。
依頼書を見ていると、気になる名前を見つけた。
「ストーンハンド、か」
「知っているんですか?」
「岩の手をした魔物、だよな?」
「はい。私も対峙したことはありませんが、中々厄介な魔物らしいですよ」
「まあな。岩だから、もちろん頑丈だ。ただ、動きはそれほど速くないから、攻撃さえ通るなら討伐は難しくない、はずだ」
「みたいですね。私もそんな風に聞いたことがあります。ただ、こちらにはロワールさんの魔法もありますし、ロワールさんの支援魔法があれば私もたぶんそれなりに攻撃できると思います」
ヒュアの分析もしっかりとしている。
「たしかに。それなら、この依頼で問題ないな」
「はい! ……えーと、この依頼は恒常依頼ですねっ。討伐部位証明である、ストーンハンドの欠片を持っていけば換金してくれるみたいです! 頑張りましょう!」
それにしても、ストーンハンド、か。
俺はその魔物について描かれた絵を思い出していた。
前世の魔物図鑑に載っていたのだが――。
「どうしたんですか? なんだか元気ない……というか難しい顔してますね?」
「……いや、別に大したことじゃないんだけど、ちょっと考え事をしていたんだ」
「え? そうなんですか? お悩みとかあれば、いくらでも話してくださいね!」
「了解、そのときは頼らせてもらう」
……ストーンハンド。俺はこの名前のモンスターに聞き覚えがあった。
というのも、それは太古に絶滅してしまったといわれている魔物で、図鑑に載っていた。
まさか、この時代でまた復活しているとはな。
魔物の生態というのはよくわからないが、通常の動物とはまた違っているのだろう。
絶滅しても復活するとは、随分とやる気に溢れた魔物だな。
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