第23話
Cランク冒険者たちに、支援魔法を施した。
やることは他にもある。まずは、ダークパンサーを見つけないといけない。
だから、俺たちは、町の外に来ていた。
「このまま、三人で挑むってのもアリだよな?」
「な、なしに決まってるだろ!」
連れてきたのは、今回の作戦の要になるだろう二人だ。
オンギルとクライ……それぞれ対照的な反応をしている。
ヒュアは支援魔法の制御のコツを教えるため、残していた。
森に入ったところでサーチ魔法を使う。見つからないのも懸念していたが、ひときわ大きな魔力を一つ、感じ取れた。
恐らくこいつが、親のダークパンサーだ。
……それにしても、魔物たちもどこかに避難しているようだな。
ほとんど、反応が見られない。……それでも、ダークパンサーに気付いていないのか、小さい反応がいくつかある。
たぶん、ゴブリンなどだろう。
この森の異変に気付かない辺り、かなり間抜けなようだ。
俺が二人を呼び出したのは、別に意地悪などではない。
この場で、伝えておくことがあったからだ。
「二人とも、少しいいか?」
「どうしたんだよ?」
オンギルが首を傾げる。
クライは未だ、不安そうにこちらを見ていた。
「今だから二人に言っておくな」
「おいおい、なんだよ? 三人で討伐って話か?」
「まあ、実質的にはそうかも」
「ど、どどどういうことだい!? まさかロワールも戦闘狂なのかぃい!?」
クライが泣き出しそうな顔で、俺たちに背中を向けた。
オンギルが片手で首根っこを掴まえると、おえっと悲鳴がもれた。
クライが文句を垂れていたが、俺は無視して続ける。
「たぶんだが、ダークパンサー相手にまともに戦えるのって、俺たちくらいだ」
「ど、どういうことだい! 冒険者たちを鍛えれば使えるって!」
「そりゃあ、足手まといにならないだろうが……はっきりいって、バリバリの戦力として数えるのは難しい。だから、二人には頑張ってもらわないとな」
オンギルは嬉しそうに口元を緩める。
「オレは元々そのつもりだぜ。死ぬまで戦ってやるよ」
「僕は死にたくないよぉぉ!!」
別に死ぬつもりはないがな。
「クライ、俺がなぜCランク冒険者たちが使えないっていうか分かるか?」
「わ、分からないよ!」
「いくら自信をつけても、戦闘を開始すれば力の差は理解できる。そうなると、彼らはたぶん怯えるだろうな」
「な、な……っ。僕もだぞ!」
俺の言葉にオンギルが腕を組んで頷く。
「ロワールの支援魔法は確かに凄いけどよ。あいつらはそもそも経験がねぇんだよ。そんで、あんだけ怯えてるんだからな。状況が変わればあっさり流されるだろうぜ」
「だから、まともに戦えるのは、俺、オンギル、ヒュア、キャッツ、クライの五人くらいだ」
ヒュアは明るく、前向きだ。これまでも弱音を吐くことなどなかった。
万が一、恐怖しても彼女は俺を信じてくれている。
俺の言葉次第で持ち直してくれるだろう。
俺の言葉に、クライが涙を流した。
「な、なにを言うんだい! 僕だってビビりだぞ!?」
「それ、自分で言うのか?」
「当たり前だ! なぜ僕をこの場に連れてきたんだ! 僕は言っておくが、大した実力がある冒険者じゃないんだぞ!?」
「けど、Bランクまであがっているんだろ? それも、基本ソロなんだろ?」
「この容姿のおかげで、優秀な冒険者に良く誘われて、そのおかげでランクがあがったに過ぎないんだって! 僕の実際の実力はCランクくらいだよ!!」
「元気に弱気なこと言うな」
クライの泣いている姿が面白くて、苦笑してしまう。
人間追い込まれたときに本性がでるというが、今のクライがまさにそれだろう。
ある意味すがすがしいほどの開き直りっぷりだ。
クライはぐっと唇を噛んでから、視線をおとした。
「……僕は、弱いんだ。Cランク冒険者になれたのは、本当に運がよかっただけさ。経験は、この中じゃ一番ないはずだ」
「そんなことはないだろう。職業ランクだってBランクまであがっているじゃないか」
「それは簡単な話だよ。僕は、確実に勝てる魔物としか戦ってこなかったんだっ。安全を第一に、危険な戦いは絶対にしてこなかった! そんな情けない冒険者として何とか今日まで生きてきたんだよ! はははっ、情けないとあざ笑うといいさっ!」
クライが叫び、その場でうずくまった。
彼の宣言を聞き、俺はむしろ感心してしまった。
「情けない? 別にそんな風には思っていない」
「……な、なに?」
「無茶な冒険をして死ぬのと、安全に冒険をして生きるの。どちらが賢く素晴らしいかは一目瞭然じゃない? なあ、オンギル」
俺が言うと、オンギルは頷いた。
「おいおい、そいつをオレに聞くのかよ?」
「オンギル個人の意見じゃなくて、冒険者としての意見を言ってくれないか?」
オンギル個人だと、情けない! と断定するだろう。
オンギルは顎に手をやったあと、口元を緩めた。
「冒険者としては、クライの生き方に同意だな。そいつに見合った場所で見合った仕事をする。それが正しい生き方ってもんじゃねぇか? オレは刺激が足りなくて嫌だがな!」
だろうな。
「な、なに……?」
クライはオンギルの評価に驚いているようだ。
死なないのが一番優秀だと俺は思っている。
死んだら何も残らない。大切なものを守る機会を失うんだからな。
「賢い冒険者のおまえに、無茶をさせるのは心苦しいが……現状、うちのパーティーで完璧にタンクをこなせるのはクライしかいないんだ。受けてくれないか?」
オンギルがアピールしてくるが、うるさいので無視する。
「……僕、が?」
「ああ。クライがもつ速剣士はスピードに特化した剣士のはずだ。敵の攻撃を回避し、隙を見て攻撃する。違うか?」
「あ、ああ……それで間違いないよ」
「だから、このパーティーで、唯一タンクが務められるんだ」
クライは首を傾げた。
「……タンクって敵の攻撃を正面から受けるんじゃないのかい?」
「要は敵の注意を集め、つぶれない人間ならだれでもできるんだ。俺の知っているタンクには、僧侶だっているんだしな」
……敵に殴られても、それ以上に回復すればいいのよね? という頭のおかしな回復魔法使いがいたのだ。
実際の職業は僧侶ではなく、癒し手と呼ばれる上級職だったがな。
血を吐いても、次には無詠唱のヒールで全快して敵を引き付けるのだ。見ていて頭が痛くなったものだ。
「でも……僕は――」
「人生長く生きていると、どうしても無茶をしなければならないときがある。ただ、今回は優秀な仲間たちがいるんだ。俺の支援魔法を信じてくれれば、必ず勝てる。今回の戦いは、全員が力を出し切れば、間違いなく勝てる」
大げさな言葉は、平常時の相手にとっては疑わしい言葉になってしまう。
だが、追い詰められた人にとっては、救いの言葉になる。
俺が彼に手を差し出すと、クライはクライはぎゅっと唇を結んで俺の手を見てきた。
不安そうに彼の瞳が揺れる。
「本当に、僕でいいのかい?」
「クライじゃなきゃダメなんだ。協力してくれるか?」
そういって手を差し出すと、彼はじっと俺の手を見てきた。
それから、ゆっくりと握ってくれた。
「……わかったよ、頑張って、みるよ」
クライの目に、覚悟が宿った。
これなら、もう大丈夫だろう。
まもなく、ダークパンサーと思われる魔力に到着する。
クライがダークパンサーと対面しても気を失わないように、今のうちに勇気づけておきたかったのだ。
「そろそろ、ダークパンサーが見えるころだ。全員にハイドの魔法をかける」
「……ハイド? なんだそいつは?」
オンギルが首を傾げた。
「敵から見つかりにくくなる魔法だ。それでも、音は消せないからな。全員、音を出さないように注意してくれ」
全員にハイドをかけたところで、魔力の反応へと向かって歩きだす。
そして……そいつはいた。
近づけばわかるが、周囲の木々がなぎ倒されていた。
四つ足で歩く黒い魔物。……その体は、小屋ほどはあるのではないだろうか?
長く伸びた尾の先には刃のようなものがついている。
ダークパンサーが歩くたび、その尾は周囲のものを切り付ける。
下手な冒険者の剣より鋭いようで、振るわれるたび木々が根元から崩れる。
一歩歩く度、地響きのような音が響く。
低く、威嚇するような声が時々漏れ、視線が周囲を向く。
「ガァァア!」
大きく吠えたダークパンサー。空気が震え、近くの木々で休んでいたであろう小鳥たちが一斉に空へと羽ばたいていく。
ダークパンサーは一度足を止めたあと、悠然と歩き出した。よかった、気づかれたわけではないようだ。
と、俺の隣ではクライが腰を抜かしていた。
震えていたクライの足元からじょぼじょぼという音が聞こえた。
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