第22話


 俺たちは会議室へと場所を移した。

 作戦に参加するメンバーは合計九人だ。

 これだけいれば、なんとかなるだろう。

 さっきのヒュアのこともあり、皆のやる気は十分に上がっていた。


 とはいえ、少し心配なのが一人いる。

 俺の隣に座っているクライだ。

 彼はずっと笑顔を浮かべているのだが、よく見ると額に汗が浮かんでいる。

 背中もびっしょりだ。


「クライ、大丈夫か?」

「な、ななな何がだい?」

「いや、随分と緊張しているように見えたんだが、違うか?」

「ま、まっさかー。僕は緊張しない人間だよ。問題なしなし」

「足、震えてるぞ」

「今日は冷えるね……」

「比較的温かいほうだが」

「さ、寒がり何だ僕は。あー、寒い寒い!」

「それじゃあ、温かい風をプレゼントしてあげるよ」

「暑いよ! これ以上暑くしなくていいよ!!」


 俺が魔法で温風を作り出すと、クライは今にも泣き出しそうに声を荒らげた。

 クライはふんと腕を組んでそっぽを向いた。

 ……こいつ、絶対緊張しているな。

 準備をしていたキャッツが会議室へとやってきたので、それ以上話はできなかった。


「それじゃあ、これから作戦会議を行うにゃ。よろしくー」


 キャッツは軽く息を吐いていた。

 ……ただ、やはりキャッツの表情も険しい。

 こんな空気じゃ、勝てるものも勝てやしないな。


「まずはパーティーのバランスにゃ。みんなの職業とランクをまとめてあるから、読み上げていくにゃ」


 まず、Cランク冒険者たちだ。

 見習い僧侶、見習い魔法使い、見習い剣士、見習い戦士の四人で、職業ランクはそれぞれCランクだそうだ。

 

 決して低くはないが、見習いというところにわずかながらの不安はあるな。

 次に、俺たちだ。


「まずは、ロワールにゃ。職業は『賢者』で、Dランクにゃ。賢者の特徴はえーと……僧侶と魔法使いを合わせたような職業でいいのかにゃ?」

「それで間違いないな」


 そういった瞬間、会議室から「賢者……」という声があがった。

 それでも、俺の実力も理解されているようで、批判はない。


 ……僧侶と魔法使いというのは分かりやすいアピールみたいだな。

 特に、見習い魔法使い、見習い僧侶の二人は羨ましがるような目を向けてくる。


「そして、私は魔法使いにゃ。職業ランクはBランクにゃ」


 キャッツがとん、と胸を叩いた。

 よく見ると、その手は震えている。指摘するのは後にしようか。

 さすがに、この状況で士気を下げるようなことを口にはしなかった。

 

「オンギルは狂戦士、職業ランクはAランクにゃ」


 ……狂戦士か。

 戦士の上級職の一つであるとされる狂戦士は、圧倒的力でもって敵を粉砕するアタッカーだ。


 強力なタンクがいれば、それこそずっと敵を攻撃し続けられるような存在だな。


「クライは、速剣士だにゃ。職業ランクはBランクにゃ」


 クライがこくりと頷いた。

 かたかたかた、と首のあたりが震えているのは気のせいだよな? 気のせいじゃないな。


 どうやらクライも緊張しやすいようだ。

 それでも彼は、プライドが高いようで決して緊張しているのを認めない。


 クライの持つ職業は剣士の上級職だ。

 素早さに特化した職業であり、ヒットアンドアウェイを得意としている。


 前世と同じで上級職にも普通に強いものもあるようだな。

 ヒュアの能力について、FランクからEランクに上昇したという修正だけは伝えて、キャッツがまとめるようにいった。


「現状のパーティ―編成はこんな感じにゃ。このパーティーで、ダークパンサー討伐に向かうにゃ」

「……きゃ、キャッツさん」


 クライがすっと片手をあげた。


「なにかにゃ?」

「今、聞いたところだと……このパーティー、タンクがいないじゃないか。このままで挑んで誰が、ダークパンサーを引きつけるんだい?」


 声が震えているが、それでも懸命にしぼりだしたようだ。


「そんなもん、オレがやってやるさ! ダークパンサーと直接殴り合えるなんて最高じゃねぇか!」


 オンギルも変態なのではないだろうか?

 そう思っていたが、オンギルの場合は戦闘が大好きという別ベクトルの変態だったことに気づいた。


「……オンギルがそういうのなら、任せようと思うけど、他のみんなも、それで異論はないかにゃ?」


 異論だらけだな。

 オンギルが攻撃役にならないと、敵を削りきれない可能性がある。

 ……やるなら、ヒュアかクライのどちらかが、回避専門のタンクとして動くべきだ。


 それか、Cランク冒険者の誰かだ。

 俺でも構わないが、今回の戦闘に関していえば、支援に徹したほうが良いだろう。

 一つのミスがそのままパーティーの壊滅に繋がりそうな綱渡りな戦いになりそうだしな。

 俺の治癒魔法なら、ある程度カバーできる。


「俺はちょっと反対だ。オンギルには攻撃に徹してもらいたい。狂戦士は守るより攻撃のほうが得意だしな」

「……え? でも確か戦士ってタンクもできたような……」


 Cランク冒険者たちが首をかしげながらそういった。

 ……どうやら、知らないようだ。

 戦士は基本的にタンクを務めるが、狂戦士の場合はあまり守るようなスキルを持っていない。

 どちらかといえば、攻撃特化だ。

 オンギルが驚いたようにこちらを見た。


「おまえ、よく知ってるな。オレの職業珍しいから、知っているのがすくねぇんだけどな。よく知ってたな」

「一応ね。というわけで、狂戦士が攻撃に集中できるようにしてほしいんだ」


 俺がそういう情報を持っているのは、俺が弱かったからだ。

 せめて、知識くらいは負けないようにしていたわけだ。

 

「俺は、クライにタンクをお願いしたいと思っているんだけど、どうだ?」

「ぼ、ぼぼぼ僕だとぉぉ!?」


 クライの声がひどく震えていた。汗と涙が混ざっている。


「ああ、クライの速剣士なら、敵を引きつけて回避というのが出来るんじゃないか?」

「た、確かに僕の職業は回避して攻撃するのが基本だ。けど、さ、さすがに格上の速度にはついていけないよ……」

「俺の支援魔法で補助すれば可能なはずだ」

「わ、悪いけど。支援魔法を受けたことがないから、制御できるかどうか」

「今すぐ、挑むわけじゃないんだ。その間に習得できればいいんだ」


 俺がそういうと、キャッツが声を挟んできた。


「討伐は一刻も早く行う必要があるにゃ」

「それは、町を襲われたら危ないから、だろ?」

「そうにゃ」

「だったら、町が襲われる寸前までは時間があるというわけだ」

「……どういうことにゃ?」


 ……まあ、俺の探知魔法については教えていないからな。

 その考えにたどり着けないのも仕方ないだろう。


「つまり、事前にダークパンサーがどこにいるのかを調べるんだ。俺はサーチの魔法を持っているんだよ」

「にゃ!? 本当かにゃ!?」


 キャッツは身を乗り出すように声をあげる。

 それは他の冒険者たちもそうだ。

 魔法使いなら、だいたい覚えるのだが、キャッツは覚えていないようだな。


「一度発見した魔力ならずっと探知できる。それを使って、ダークパンサーを見つけ出す。あとは、町に迫ってくるまで様子を伺っていればいいんじゃないか?」


 俺の提案に、キャッツが首を縦に振った。


「……確かに、やつがこちらに襲撃しそうなタイミングで行動に移せばいいから、幾分時間はできるにゃ」

「その間に、俺の支援魔法を一人でも多くの冒険者が使えるようにすればいいんだ。そうすれば、戦力が今の倍以上になるはずだ」

「……」


 驚いたようにキャッツがこちらを見る。


「ロワールはここにいる全員に支援魔法を使うだけの魔力と、制御ができるというのかにゃ?」

「もちろんだ」


 俺がそういうと、皆が目を見開いた。


「……そんだけの魔法を制御できるなんて、やべぇな」

「どんな化け物だよ。ロワール、すげぇな……」

「いや、もうロワールじゃないな。ロワール様だな……」


 そんなことを言いながら、Cランク冒険者たちがきらきらとした目でこちらを見てきた。

 

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